スペイン土着ぶどう品種の魅力についてソムリエ、斎藤部長が徹底解説! スペイン土着ぶどう品種の魅力についてソムリエ、斎藤部長が徹底解説!

スペイン土着ぶどう品種の魅力についてソムリエ、斎藤部長が徹底解説!

スペインには約150種類もの土着ぶどう品種があると言われています。スペインのワイン造りの歴史は3,000年以上もあり、個性豊かな土着品種が各地で栽培されてきました。絶滅の危機に瀕する品種も多いものの、品質が再評価されるなどその魅力に改めて注目が集まっています。スコルニ・ワイン営業統括本部長の齊藤邦久氏に、土着ぶどう品種でつくられたワインの魅力について話を聞きました。

―齊藤本部長はこれまで長い間、ソムリエとして様々な国の様々なワインを飲んでこられました。スペインの土着ぶどう品種でつくられたワインの魅力とは何でしょうか?

ワインの世界には、スペインなどの伝統国そしてアメリカなどの新興国があります。ワインづくりの歴史は当然ながら伝統国のほうが長く、土着品種の種類も多い。例えばスペインのボバルという品種は紀元前5世紀には栽培されていたとされる古代品種です。数千年にわたり土地に寄り添ってきたのですから、テロワールを象徴するぶどう品種とも言えます。ワインを飲みながら、その原料であるぶどうが栽培された土地の情景や長い歴史に思いを馳せるという楽しさがあると思いますよ。

ですから、土着品種のぶどう1種類でつくられたワインを飲んでいただきたいですね。そのほうがワインの特徴を純粋に感じることができます。または土着品種を数種類ブレンドしたワインもいいでしょう。テンプラニーリョなどの土着品種とカベルネソーヴィニヨンなどの国際品種を混ぜたワインももちろん美味しいですが、土着品種100パーセントならテロワールがより強く感じられると思いますよ。特にスペイン料理を食べるときは、スペインの土着品種100パーセントのワインを選ぶことをおすすめします。

―土着ぶどう品種は農作物であると同時に、ある地域の歴史や伝統文化も色濃く反映しているのでしょうね。

そのとおりです。ワインは基本的にぶどうだけでつくられています。スペインでは昨年、50年ぶりに大雪が降りました。加えてこの数年、コロナ禍が世界中で猛威を振るっています。そうした人知の及ばない危機的事象がある中で、ぶどうの収穫までこぎつけるには大変な労力が必要です。ですからワインメーカーが比較的安定した収量の見込める国際品種を採用するのはやむを得ないことではありますが、国際品種に取って代わられて絶滅しかけていた土着品種もありますよ。しかし土着品種は長い歴史に育まれ生き抜いてきた貴重なぶどうですから、こうした現状を乗り越えて後世に残していきたいと多くの人々が願っています。ぶどうやワインだと日本のみなさんにはぴんと来ないかもしれませんが、江戸野菜や京野菜と聞くといかがでしょう?これらの野菜についても、生産性の優先や消費者の嗜好変化を受けて消滅した品種が多い。しかし近年、江戸野菜や京野菜の復活に向けた動きが強まっています。古くから存在する農作物には、長い歴史に育まれた伝統文化としての価値があることを身近に感じていただけるのではないでしょうか。

私はソムリエというよりインポーターとして、伝統的な価値を持つ土着ぶどう品種でつくられたワインを日本に広めていきたいと思っています。また、こうした背景を持つワインのほうが、自分好みのワインを探し出す過程において楽しみが増えるようにも思います。後ほど紹介する「アバデンゴ・ クリアンサ」など、スペインのサラマンカ県にあるアリベス・デルデュエロ自然公園あたりにしかないフアン・ガルシアというぶどうでつくられているのですよ。そう聞くと、実際に行ってみたくなりませんか?ブドウが育つ土地を訪れ、観光を通して歴史や文化にふれ、その土地の料理とともにその土地にしかない品種でつくられたワインを味わう。このように、まさに世界にひとつしかない経験ができると思いますよ。

―スペイン以外の国にも土着品種はありますが、他国にはないスペイン土着ぶどう品種のワインならではの魅力はあるのでしょうか?そんな魅力を体現したワインを教えてください。

まずおすすめしたいのは「チャコリ カチニャ」というワインですね。チャコリとはバスク地方の微発泡ワインです。土着品種オランダビ・スリ100パーセントのこのワインは、きれいで華やか、そしてとてもエレガントに仕上げられています。チャコリには、「エスカンシア(escanciar。「注ぐ」という意味)」と呼ばれる特別な注ぎ方があります。ワインボトルをグラスから20cm程度上に掲げ、流し落とすように注ぐ方法です。この方法で注ぐとチャコリの泡の繊細さが増し、空気接触を促すので酸が和らいで芳醇な香りが楽しめます。このエスカンシアというパフォーマンスもチャコリならではの魅力ですね。チャコリは魚料理との相性も良く、缶詰などの簡単なおつまみで美味しく飲めます。生産者がつくっているのはこのワインのみで、品質へのこだわりは他に類を見ないものがあります。

「アラグ・ロゼ フォルカリャ」もスペインならではの個性的でチャーミングなワインです。フォルカリャという絶滅しかけていた土着品種100パーセントでつくられています。このワインを飲むことは、現代に蘇った古代を体験することに等しいかもしれませんね。このワインの生産者は積極的に土着品種を栽培しており、ブドウの個性を最大限に引き出すワインづくりに努めています。チェリーやピンクグレープフルーツのアロマがさわやかで、淡いサーモンピンクの外観を見ると思わず手に取ってみたくなりますよ。穏やかな酸味が特徴ですが、しっかりした口当たりも楽しめます。

先ほど申し上げた「アバデンゴ クリアンサ」もスペインらしさあふれるワインです。原料の土着ぶどう品種フアン・ガルシアは、ワイナリーの位置するサラマンカ県アリベス・デルデュエロ自然公園あたりでしか栽培されていません。世界中探してもこの土地にしかない固有品種なのですよ。樹齢70年以上のブドウ樹からつくられた、まさにレアなワインと言えますね。ブラックチェリーなどの凝縮感のあるアロマや深い余韻が楽しめる、野性味たっぷりなのに優雅さが感じられるワインです。

―どれも今すぐに飲んでみたくなるワインばかりですね。ただ、カベルネソーヴィニヨンなどの国際品種と比較して、土着品種は風味や品質の面で若干精彩を欠くなどの懸念はあるのでしょうか? 

そうした心配はまったくありませんね。味も品質も同じくらい優れています。ただ、知名度の点において、日本で苦戦を強いられる場面は多いように感じます。ヨーロッパのワインは多くの場合、ラベルにぶどう品種が記載されていません。それだけでも日本の消費者にとってワインを選ぶさいのハードルが高くなる。カベルネソーヴィニヨンなどの国際品種なら知っているものの、フアン・ガルシアやフォルカリャとなると、どんなぶどうなのか見当もつかないという場合が多い。だからせっかく美味しいワインでも、購入するかどうかの瀬戸際で尻込みをしてしまいますよね。販売する側がいかに適切に説明できるか否かにかかっている部分もあると言えます。ソムリエそしてインポーターとして、説明による安心感や認知度を高めることにも貢献していきたいと思っています。

―土着品種と国際品種を比較するのではなく、それぞれの美味しさを楽しめばいいのですね。

スペインでは土着品種も国際品種も豊富に栽培されています。どちらでつくられていても、スペインの人は自国のワインの味や品質に満足しており、他国のワインとことさらに比べたり競争心を持ったりはしません。スペインワインは他国に引けを取らない優れたワインであると自負し、スペインワインをサポートする意味も込めて、他国のワインよりもスペインワインをたくさん飲んでいます。日本では「このワインはブルゴーニュのピノノワールのようだ」など、国際品種それも特にフランスのワインを基準に飲み比べてしまうことが少なくないように思います。こうした比較をするのではなく、土着であれ国際品種であれ、それぞれの美味しさに着目して楽しむことが大切だと思います。ワインだとぴんと来ないかもしれませんね。では、日本酒ならどうでしょう。日本では各地域のお酒に満足し、他地域のお酒とことさらに比べたりはしませんよね。それと同じことだと思います。ぶどうやワインそれぞれの特徴や美味しさに注目してワインを選べるようになると、さらに楽しいワインライフが送れるのではないかと思います。ソムリエそしてインポーターとして、こうした考え方を普及させていくことにも努めていきたいと思っています。

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