テーブルに笑顔を、皆さまに美味しいスペインワインを スコルニワイン30年の歩み テーブルに笑顔を、皆さまに美味しいスペインワインを スコルニワイン30年の歩み

テーブルに笑顔を、皆さまに美味しいスペインワインを スコルニワイン30年の歩み

特別インタビュー

スコルニワイン創業者・取締役会長:田中茂雄

聞き手・文:冨永真奈美

ライター、翻訳家、JSAワインエキスパート、ワイン検定講師。ワイン、旅行、クルーズの雑誌やウェブメディアにて取材・執筆(日本語・英語)しています。講師としてワイン検定やセミナーを実施するなど、日本におけるワイン文化の普及に貢献するべく活動しています。

 

日本でスペインワインがほとんど流通していなかった30年前。当時のスペイン大使がこんな気持ちを吐露しました。「日本でも美味しいスペインワインを飲みたい」。この希望に応えるべく、スペインワインの輸入会社スコルニワインを創業したのが現取締役会長の田中茂雄氏です。創業以来30年間、数多くの優れたスペインワインを日本市場に持ち込んだ田中氏に、自身のキャリアやスコルニワインの歩み、同社の目指すインポーターとしてのあり方について話を聞きました。

スペイン大使に出会う前のキャリアやスコルニワイン創業の経緯を教えてください。もともとスペインやワインに関する仕事に携わっていたのですか?

いえ、実のところ、スペインのこともワインのこともあまり知らず、お酒も飲んでいませんでした。そんな私がスペイン大使に出会い、スペインワインのインポーターになったのですから、スペインやワインとは何かの縁で結ばれているのかなと思います。思い返せば、いつも誰かが私とスペインを結んでくれましたから。

サラリーマンをやめて起業したのは38歳の時です。アパレル、水のリサイクル、ゲームソフトの販売など、ワインに関係のない様々なビジネスを手掛けていました。飲食店の経営にも興味があり情報を集めていたとき、「スペインバルを開いてみたらどうか」というアドバイスをいただいたのです。そこで早速スペインへ飛び、スペインバルに行ってみました。「日本人に会うのは初めて」と私の周りにスペイン人がワイワイ集まってきて、私はあんまり飲めないのに飲まされて。(笑)みんなと楽しくワインを飲みながら、「これがスペインバルなのか。よし、日本でスペインバルをオープンするぞ!」と心に誓い意気揚々と帰国したのです。

ところがいきなり出鼻をくじかれた。規制により生ハムの輸入が禁止されたのです。生ハムがないスペインバルなど考えられないから泣く泣くオープンを見送り、それ以前に頭にあった日本酒専門のショットバーを開きました。そんな流れでスペインバルとの関わりは私の人生から一時消えてしまいました。

しかししばらく経って、またもスペインに関するビジネスの話が舞い込んできたのです。当時、スペイン大使館ではスペインワインを輸入販売する人を探しており、関連会社を通じて私に相談が来たのです。スペイン大使が「日本でも美味しいスペインワインを飲みたい」とおっしゃられてね。「スペインバルではなくて、今度はスペインワインそのものか」と事の成り行きをおもしろがるとともに、つくづくスペインには縁があるなあと感慨深い思いを抱きましたよ。

そこから何度かスペインへ飛び、現地で商社マンと共に車で縦横無尽にワイナリーを巡りました。日本で販売したいと思えるワインにもいくつか出会い、張り切って帰国したのですが、そこでまたもや出鼻をくじかれたのです。今度は酒類免許が取れないという問題に直面してしまった。当時は取得条件が今よりも遥かに厳しく、販売実績の有無などが問われましたからね。しかしあきらめないで免許を取得し、本格的にインポーターの業務を開始しました。紆余曲折ありましたが、おかげさまで約30年、スコルニワインはインポーターとしてビジネスを続けています。

この30年間、常に売れ行きは順調だったのですか?

A:いいえ、最初の数年はまったく売れませんでした。(笑)どこに持ち込んでもけんもほろろで赤字経営の状態でしたよ。今でこそスペインワインは多くの人に親しまれていますが、当社が創業した1990年代はスペインワインへの認識も普及も進んでいませんでした。イタリアやフランスのワインは当時から人気があり市場に定着していたけれどね。

当時はまだ、日本においてスペインワインへの信頼が生まれていなかったのだと推察します。スペインは今やヨーロッパ有数のワイン大国ですが、ブドウ畑の壊滅など過酷な歴史に翻弄されてきた国でもあります。1950年代頃から国を挙げてワインづくりの立て直しが始まりましたが、如何せん資金力に乏しく質よりは量が重視されていました。私がスペインワインの輸入を始めた1990年代は、質の高いワインが生まれるようになってきたばかりのタイミングだったのです。それは奇しくもスペイン大使館から輸入販売の相談を受けたタイミングでもありました。やはりスペインとは縁があった、運命だったのだとしみじみ思いますね。

ビジネスが上向いていったのは2000年に入ってからです。これには様々な要因がありますが、一つ目は目新しさとコストパフォーマンスだと思います。当時は市場に出回っているスペインワインの種類に限りがあったので、当社のワインが消費者にとって目新しくなってきたのです。その先鋒となったのはドン・ラモンという口当たりの良い手頃な価格のワインでした。「価格の割には美味しいヨーロッパのワイン」というメリットに消費者は魅力を感じたのでしょうね。これはスペイン政府の販売戦略でもありました。日本市場におけるヨーロッパワインの後発組だから、安価な値段でたくさん売ろうというアプローチが取られていたのです。二つ目はスペインバルの出店数が激増したことです。バルで数多くのスペインワインが提供され、スペインワインへの認知度が非常に高まっていきました。三つ目として日本食との親和性が挙げられます。スペインワインは食事と一緒に飲む方が美味しいし、素材を活かす日本食によく合います。だから日本の消費者に受け入れられ、食卓にもよくのぼるようになったのではないかと思います。

小売店やレストランなどを訪ね、それぞれのサービスや形態に合うワインを丁寧に紹介するといった営業努力を重ねていきました。ワインの販売では「手に取って飲んでもらうまでが大変、一度でも飲んでくれたら成功」です。一度飲んでくれたら続けて飲んでくれる可能性が生まれますからね。ヨーロッパそしてスペインから見たら、日本は魅力的な市場で、まだまだポテンシャルがある。今後もスペイン大使館とともに、スペインワインのさらなる普及に努めていきますよ。

売れ行きが芳しくない時も他の国のワインは売らず、スペインワインに特化すると決断した理由を教えてください。

人気の高いフランスやイタリアのワインを販売しようかと思ったこともありました。社員の間にもスペインワインだけに頼ることに懸念を示す雰囲気がありましたね。しかし、スペインワインがあまり普及していないからこそ、特化する方がいいのではないかと考えたのです。スペインでは東西南北にワイン産地が広がっており、それぞれ異なる味わいを持つユニークなワインが造られています。各地の造り手の思いを消費者により深く伝えていくには、様々な国のワインを取り扱うよりもスペインワインに特化するのが最善と考えたのです。

また、優れた醸造家やワインとの出会いも、スペインワインだけに情熱を捧げたいと思えた理由のひとつです。「この醸造家にかけてみよう」と思わせてくれるワインに出会えたことは大変に幸運なことです。

DOトロのラモン・ラモスとの出会いは非常に強く印象に残っています。家族経営のワイナリーで、みんなそろって庭でランチを楽しみながら語らっていた光景を今でも思い出しますよ。当主のラモス氏は「あんな巨体が空をきちんと飛べるわけがない」と飛行機に乗らない方でね。当社以外は外国人との取引も無し、ファクスも無し、来日する気も無しという原始的な人で。(笑)だからこそ、彼らのつくるモンテ・トロというワインは、私がそれまでの人生で最初に大きな感動を覚えたワインでした。素朴な家庭の味、昔ながらの味を思わせるノンフィルターのワインです。このワイナリーとは今も変わらず取引が続いていますよ。

パゴス・デ・ファミリア・マルケス・デ・グリニョンの当主、グリニョン伯爵カルロス・ファルコ氏との出会いもスコルニワインのビジネスに大きな影響を与えてくれました。カルロスさんはスペインのワイン界を牽引する大物で、伯爵として大きな城に住み、狩りを楽しみ、「人生をポジティブに、楽しく前向きに捉える」という信念を持っていました。当社発足から10年目に、カルロスさんから「取引をしたい」と持ち掛けられたときは本当に驚きましたよ。こちらは及び腰だったのですが、「スコルニワインについては十分に調査した。ワインの品質を維持したままで丁寧に売ってくれる会社と見込んでいる」とうれしいことを言ってくださる。マルケス・デ・グリニョンとの取引の効果で、他のワイナリーからも引き合いがどんどん来るようになりました。カルロスさんは残念ながらコロナで亡くなられましたが、カルロスさんへの感謝の気持ちは永遠に続いていきますよ。

田中氏とスコルニワインが常に大事にしていることや今後の展望を教えてください。

私がワインと出会ったとき、ワインとは日本にない文化だなと思ったものです。ワインは人間の五感に快い刺激を与え、人との心の距離を縮め、人とのつながりを深めてくれる大切な脇役のような存在です。同じワインでも人によって飲んだ感想は違うので、「どう思った?」などと会話に花が咲きますからね。美味しいスペインワインを飲みながら楽しく会話をしてほしい。テーブルに集まった人々に笑顔を届けたい。これがスコルニワインの変わらぬ思いです。

実は今、スペインで若手の醸造家とともに、ブドウ栽培からワイン醸造まで行うワイナリープロジェクトを構想しています。このプロジェクトの根底にあるのは醸造家を育てていきたいという思いです。また、日本の皆さまにさらに美味しいワインを飲んでいただくため、日本に合うワインをスペインの醸造家とともに造っていきたいという考えもあります。もちろん当社が輸入販売まですべて行っていきます。

 造り手は、畑を愛し、ブドウを愛し、ワインを子供のように愛しています。インポーターには造り手の愛情がこもった美味しいワインをしっかり届ける義務がある。それには現地と変わらない味と品質を維持したまま、日本の皆さまに飲んでいただくことも肝心ですから、どれほど安価なワインでも必ずリーファーコンテナで輸送しています。当社は人々を笑顔にする優れたワインだけをお届けするよう尽力しているのです。万一当社がつぶれたら(笑)、他社がこぞって持っていくだろうと思うほどのワインばかりを持っていると自負していますよ。

スコルニワインのこうした姿勢は今後も変わりません。ただ、時代とともにワインづくりを取り巻く環境は変わってくるものと思われますから、これから当社を引っ張っていく人々には状況に合わせて柔軟に取り組んでいってほしいと思います。時代に合わせて多様な人材を投入することで活気を生み出し、組織の新陳代謝を上げていくことも必要と捉えていますよ。若い人々に任せて、私は美味しいワインをゆったり飲んでいられたらなあとも思いますが。(笑)ともあれ、今後もインポーターとして若い世代とともに、造り手の愛情のたっぷり入った美味しいワインを通して多くの方々にたくさんの笑顔と大きな感動を届けていこうと思っています。

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