ワインについて知識を深める上でその醸造方法を知ることはとても大切です。今回は赤ワインの醸造方法を工程ごとに順を追って説明していきます。
赤ワインの醸造法
赤ワインの材料
赤ワインには黒ぶどうと呼ばれる品種が主に使われます。皮や種、種類によっては果梗(枝の部分)も一緒に発酵させ、赤い色素や渋みとなるタンニンを抽出させます。
収穫
ヴァンダンジュ(Vendange)
ぶどうの収穫は手摘みによって行われることもありますが、専用の機械で収穫することもあります。機械収穫は収穫のタイミングを逃さず、素早くしかも低コストで行うことができる反面、選果ができなかったり、ぶどうに痛みが出たり、収穫漏れがあったりなどのデメリットもあります。
選果
トリアージュ・デ・レザン(Triage des raisins)
収穫したぶどうを醸造所に搬入したら、破砕する前に選果する場合が大半です。選果台をベルトコンベアーで移動するぶどうから、成熟度が低いものや腐敗したものなどを数人で取り除いて行うことが多いようです。
除梗(じょこう)
エグラパージュ(Égrappage)
ぶどうの房の果梗(枝の部分)を取り除き、種が潰れない程度につぶし、果皮や種、時には果梗が含まれた果醪(かもろみ/ムスト、Must)にします。赤ワインは果汁をぶどうの皮の成分と一緒に発酵させるため、皮は取り除きません。種類によっては果梗も一緒に房ごと発酵させる場合もあります。
カベルネ・ソーヴィニヨン(Cabernet Sauvignon)やメルロー(Merlot)などは果梗に青臭い匂いが多く含まれるため、完全に取り除くのが一般的です。いっぽう、ピノ・ノワール(Pinot noir)などは果梗に青臭い匂いがほとんどないため、果梗を少し残したり、完全に残して発酵させたりするケースがほとんどです。
破砕(はさい)
フーラージュ(Foulage)
収穫されたぶどうはつぶされます。つぶす際にはプレス機が使われますが、プレスの方式にはいくつか種類があります。赤ワインには強い圧力をかけてたくさんの果汁を絞る「水平式」のプレス機が向いていると言われています。水平式は地面に対して水平に置かれた円柱型のタンクの左右両側から圧力をかけることで搾汁するプレス機です。
また、昔はぶどうの破砕は裸足でぶどうを踏みつぶすことで行われ、その様子は現在でも各地の収穫祭などで再現されています。
二酸化硫黄(亜硫酸)を添加する場合はこの工程で加えます。二酸化硫黄は酸化防止や不必要な野生酵母や酢酸菌などの殺菌のために使われます。
主発酵
フェルマンタシオン・アルコリック(Fermentation Alcoolique)
主発酵とはアルコール発酵のことを指します。
ムストを木桶やタンクに入れ、酵母を加えるか天然酵母により発酵するのを待ちます。アルコール発酵すると熱が発生するため、適正温度である30℃程度前後に温度管理されます。発酵するとぶどうの糖分がアルコールと炭酸ガスに分解されます。ぶどうの糖度が低ければアルコール度数が低くなります。ぶどうの糖度が低い場合は補糖されることがありますが、収穫年や地域によっては制限があります。
醸し
マセラシオン(Macération)
赤ワインの工程の中では最も重要だと言われる工程です。発酵容器内で果皮や種子を漬け込むことを意味します。発酵が始まると果皮の赤い色素、アントシアニンと渋み成分のタンニンが溶け出します。ぶどうの種子には表面に油脂がついていて、アルコール度数が10%くらいになるとその油脂分がアルコールに溶け、種子にワインが直接触れ、種子のタンニンが溶け始めます。
ロゼワインの場合は程よい色合いになったところでワインと果皮を分け、発酵を進めます。白ワインでもオレンジワインを造る場合は醸しを行うことがあります。
液循環
ルモンタージュ(Remontage)
・櫂入れ
ピジャージュ(Pigeage)
醸しを行う2〜3週間の間に発酵で二酸化炭素が生まれ、その力で果皮や果肉が果醪の上部に浮いてきて果帽(シャポー・ド・マール)が作られます。
果帽をできたまま放置すると成分の抽出速度が遅くなったり、糖分や温度がまばらになったりするため、発酵タンクをかき混ぜて果帽を崩してかき混ぜます。
発酵タンクの下から発酵中の液体を抜き、タンク上部に浮いている果帽の全体に液体をかけます。この作業を液循環と呼びます。液循環の装置がない醸造所では人の手によって櫂を入れる場合もあります。最近では油圧式の櫂入れ装置も開発されています。
圧搾
プレシュラージュ(Pressurage)
ワインをタンクの下部から抜いて果帽と分け、強く圧力をかけ(圧搾)、ワインの密度を高めます。このとき、圧搾を加えずに自重で自然に流れ出たワインはフリーランワイン、圧搾されたワインはプレスワインと呼ばれます。フリーランワインは繊細な味わいで、プレスワインはタンニンと色素を多く含みます。
プレスワインは圧搾の圧力の大きさでいくつかに区分分けされます。低圧で圧搾されたものはタンニンが豊かでフルーティ、高圧で圧搾されたものは収斂性(タンニンによって歯茎や舌が乾くような感じ)が強く、フルーティさに欠けます。低圧で圧搾されたものは貴重で、フリーランワインにブレンドして味わいに複雑さを与えるのに用いられます。高圧で圧搾されたもののほうは格落ちのワインや、蒸留用のワインにブレンドされることが多いようです。
マロラクティック発酵(MLF、Malo-lactic fermentation)
アルコール発酵が終わった赤ワインはマロラクティック発酵の段階に入ります。マロラクティック発酵とは、ぶどうに含まれるリンゴ酸が乳酸菌の働きで乳酸と炭酸ガスに分解される発酵のことです。
マロラクティック発酵が起こるとレモンのような酸味のあるリンゴ酸が乳酸に変わるため、乳製品のようなまろやかな酸味になります。さらに香りに複雑性が増して豊潤になることに加え、リンゴ酸がなくなることで瓶詰め後の生物学的安定性が向上する、という効果もあります。マロラクティック発酵はタンクもしくは樽で行います。
マロラクティック発酵はアルコール発酵の後に行うのが一般的ですが、現在では、発酵前の果汁に発酵用の酵母を入れる時に乳酸菌も加え、アルコール発酵とマロラクティク発酵を並行して行うこともあります。
熟成
エルヴァージュ(Élevage)
マロラクティック発酵を終えた赤ワインはタンクまたは樽で1〜2年間熟成します。
熟成の目的はワインを安定化させ、清澄することです。タンクまたは樽内での熟成は瓶内の熟成とは違い、生き物としてのワインに発展の過程を継続させ、複雑なアロマを産み出させます。
樽で熟成すると樽由来の影響がワインの風味に現れます。樽熟成の場合は木目からワインが蒸発するため、減った分のワインを補う捕酒(ウイヤージュ、Oillage)を定期的に行います。
澱引き
スーティラージュ(Soutirage)
熟成中にワインに含まれるポリフェノールや酒石(ぶどうの酸味成分である酒石酸とミネルラが結合した物質)などが澱となって沈殿するため、上澄みを別の容器に移し替える作業を数回行います。澱引きすることによって酸化を調節し、より豊かなアロマを得る効果が期待できます。
清澄
コラージュ(Collage)
澱引きを行った後のワインをさらに透明にするための作業です。伝統的に清澄剤として使われるものには卵白、タンニン酸、ゼラチン、ベントナイト(粘土鉱物を主成分とした岩石)や珪藻土などで、これらを組み合わせて使うこともあります。
濾過
フィルトラージュ(Filtrage)
清澄したワインをさらに透明するために、瓶詰めする前に濾過器などを使って濾過します。ただ、旨味成分を逃さないように濾過を行わなかったり、粗いフィルターで濾過する場合もあります。
瓶詰め
アンブティヤージュ(Embouteillage)
コルク栓、またはスクリューキャップで栓をしたら多くのワインは出荷されます。長期間熟成させるタイプのワインはラベリングする前に瓶内でさらに熟成させてから出荷となります。
ワインはコルクでの瓶詰めが伝統的ですが、近年は北・南米やオーストラリアなどのニューワールドワインを中心に、スクリューキャップで瓶詰めされるワインが増えています。ヨーロッパでも普及率は高まり、世界のワイン全体の3割程度がスクリューキャップになっています。
まとめ
醸造方法を知るとワイン選びにより、興味が湧いてくるのではないでしょうか?ワインを飲み交わす際の楽しい会話のエッセンスのためにも、ぜひ知識を深めて、ワインにもっと親しんでいただけたらと思います。