ラ・リオハ州(La Rioja)といえば、リオハ・ワインを真っ先に思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。そう、リオハは言わずと知れたスペインワインの銘醸地です。
ボデガ巡りももちろんおすすめですが、ラ・リオハ州には2つの世界遺産もあります。
旅に出かけられる際には、ぜひ世界遺産とスペインワインのリオハ・ワインをセットで楽しんでみてください。
対照的な2つの修道院を訪れたついでにグルメも楽しもう
ラ・リオハ州の南西・サン・ミジャン・デ・ラ・コゴージャ(San Millán de la Cogolla)にあるユソとスソという2つの修道院は、サン・ミジャン・ユソとサン・ミジャン・スソの修道院群(Monasterios de San Millán de Yuso y de Suso)として、1997年に世界遺産に登録されました。
スソというと日本語の「裾」という漢字から、山の下の方にあるイメージがしますが、実はラテン語で「上向き」を意味するSursumやSussumが語源なので、高台に位置しています。
ユソ(yuso)は、ラテン語で「下向き」を意味するDeorsumが語源です。
ハイキングルートを通れば、山の中腹にあるスソ修道院から山のふもとのユソ修道院までは、徒歩約30分で到着することができます。
スソ修道院は、6世紀にサン・ミジャン(聖エミリアヌス, San Millán/ St. Emilianus)が洞窟で隠遁(いんとん)生活を行ったことに始まります。
サン・ミジャンが亡くなった後、隣に洞窟教会が造られ、7世紀に西ゴート族(Visigoth)によって、洞窟教会の前に屋根付きの身廊が建てられました。
10世紀にナバーラ(Navarra)王ガルシア・サンチェス1世(García Sánchez I)がモサラベ(Mozárabes)様式で教会を拡張し、火災に遭った後、サンチョ3世(Sancho III Garcés)が倉庫などをロマネスク(Romanesque)様式で増築して、11~12世紀に完成しました。
カスティーリャ語(Castellano,スペインの公用語)を用いた最初の詩人ゴンサロ・デ・ベルセオ(Gonzalo de Berceo)は、13世紀にスソ修道院で宗教教育を受けています。
スソ修道院は小規模な修道院のため、訪問できる人数が限られています。予定が決まった段階で、早めに予約を入れると良いかもしれません。
素朴な雰囲気のスソ修道院と対照的に、ユソ修道院は、ラ・リオハのエル・エスコリアル(Monasterio de El Escorial)とも呼ばれる、絢爛豪華な修道院です。
11世紀の時点ではロマネスク様式で建てられていましたが、16,17世紀に改築したため、ルネサンス(Renaissance)様式、ゴシック(Gothic)様式、プラテレスコ(Plateresco)様式、バロック(Baroque)様式が混在しています。
馬に乗ってムーア人(Moors)と戦うサン・ミジャンのレリーフ(Relief)が施された、1661年完成のファサード(façade)や、天井にフレスコ画が描かれた聖具室、サン・ミジャンの聖骨箱やロマネスク様式のレリーフなどが飾られる展示ホールなど、見どころいっぱいの修道院です。
修道院の敷地内にはオステリア・サン・ミジャン(Hostería San Millán)という4つ星ホテルがあり、リオハ・ワインが充実した「イン・ヴィノ・ベリタス」(In Vino Veritas)というレストラン兼ガストロ・バーでお食事することもできますよ。
ヴィーガンメニューもチョイスできるレストラン兼ガストロ・バーでは、ボデガス・ムガ(Bodegas Muga)のカヴァ・コンデ・デ・アーロ(Cava Conde De Haro)をお試しあれ。
サンティアゴ巡礼のルート上にあるワインスポットに立ち寄る
次にご紹介する世界遺産は、サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路:カミーノ・フランセスとスペイン北部の巡礼路群(Caminos de Santiago de Compostela: Camino francés y Caminos del Norte de España)です。
ガリシア州(Galicia)にあるサンティアゴ・デ・コンポステーラまで巡礼路は続きますが、ラ・リオハ州では、
・フランス人の道(カミーノ・フランセス,Camino francés)上のログローニョ(Logroño)からグラニョン(Grañón)まで
・バスクーリオハ内陸の道(Camino del interior Vasco-Riojano)のブリニャス(Briñas)からサント・ドミンゴ・デ・ラ・カルサーダ(Santo Domingo de la Calzada)まで
・ブリニャス橋(Puente de Briñas)
が世界遺産に選ばれています。
ラ・リオハ州内にあるフランス人の道の構成要素84ヶ所のうち、サント・ドミンゴ・デ・ラ・カルサーダ(Santo Domingo de la Calzada)にあるカテドラル(Catedral de Santo Domingo de la Calzada )は、特にはずせないスポットです。
サント・ドミンゴ(聖ドミンゴ, Santo Domingo)は、11世紀ころ、道なき道だったナヘラ(Nájera)からレデシージャ・デル・カミーノ(Redecilla del Camino)間の巡礼路に、石畳の道(カルサーダ, Calzada)を整備したことで知られています。
12世紀から18世紀にかけて建てられ、ロマネスク様式・バロック様式・ルネッサンス様式などの建築様式が入り混じったカテドラル。
かつて、巡礼者が無実の罪で絞首刑にされた時、ローストされた鶏が鳴くと共に、巡礼者の命も助かる、という奇跡が起きました。
そのため、カテドラル内にあるゴシック様式の鶏舎では、今でも2羽の鶏が飼われています。鶏にストレスを与えないよう、定期的に鶏は入れ替えられているそうです。
カテドラル内にはサント・ドミンゴのお墓もあるので、お墓参りしてみてはいかがですか。
サント・ドミンゴが12世紀に建てた病院を使ったパラドール(Parador,宮廷や修道院などの歴史的建造物を改築した国営ホテル)は、カテドラルに面して建っています。
パラドール内のレストランでは、マーマレードとリオハ産のスペインワインで豚の頬肉を煮込んだ料理など、リオハならではのグルメを楽しむことができますよ。
サント・ドミンゴ・デ・ラ・カルサーダからサンティアゴ・デ・コンポステーラと反対方向に約20km戻った場所にあるナヘラ(Nájera)は、町自体(ナヘリリャ川(Río Najerilla)の西側)が世界遺産に登録されています。
かつてはナバーラ王国の首都だったナヘラ。11世紀にサンチョ3世が巡礼ルートを変えたことで、巡礼者が行き来する町となりました。
ナヘラから車で約7分の場所には、希少な土着品種マトゥラナ・ブランカ(Matulana Blanca)を使って造られるオーガニックワイン・シェヘラザード(Serezhade)で知られる、ボデガ・ラス・セパス(Bodega Las Cepas)があります。
ナヘラから再び約30km反対方向に進むと、ラ・リオハ州の州都ログローニョ(Logroño)
へ到着します。
グルメスポットとして知られるローレル通り(Calle del Laurel)周辺では、串焼ききのこ(Champi)とリオハ・ワインをセットで召し上がってみてください。
ログローニョの中心部には、リオハ・ワイン近代化の立役者である、マルケス・デ・ムリエタ(Bodega Marqués de Murrieta)にちなんだマルケス・デ・ムリエタ通りもありますよ。
次に、バスクーリオハ内陸の道のルート上にあるアーロ(Haro)をご紹介しましょう。
中心部より北側にあるアーロ駅(Estación de Haro)周辺には、ボデガがいっぱい集まっていますが、その中の1つがユソ修道院のレストランメニューにラインナップされていたボデガス・ムガです。
他に、試飲コーナー兼ワインショップをザハ・ハディド(Zaha Hadid)がデキャンター型に設計した、ボデガ・ロペス・デ・エレディア(Bodega de R. López de Heredia-Viña Tondonia)などもあります。
アーロには、約20のボデガがあるそうです。
アーロのグルメスポットは、アーロ駅から南側に向かいティロン川(Río Tirón)を渡った先、ラパス広場(Plaza de la Paz)周辺にあります。
ラパス広場に面して建つ、壁面にディスプレイされたワイン樽が目印の市庁舎の隣には、エンリケ・パテルニーナ(Enrique Paternina)作、ワインを手に持った2人の酔っぱらいがお巡りさんに支えられている「Costumbres jarreras」という絵の壁画が描かれています。
壁画の場所を底に見立ててU字型に伸びるサント・トマス通り(Calle Santo Tomas)と
サン・マルティン通り(Calle San Martín)は、アーロの一番のグルメスポットです。
サント・トマス通りの最終地点・サント・トマス教区教会(Parroquia de Santo Tomás)の前には、アーロ限定のチェーン店ベートーベン(Beethoven)の支店で、ワインとタパスが気軽に楽しめるベートーベン3(Beethoven III)というバーもあるので、金曜と土曜の夕方以降に教会を見学する時は、立ち寄ってみても良いかもしれません。(8月は月曜と火曜以外、昼と夜いずれも営業しています)
同じくサント・トマス通りにあるシャモニー(Chamonix)は、横倒しになったワインボトルが内壁にアート作品のようにディスプレイされていて、レトロでありながらおしゃれな雰囲気を感じます。
ピンチョ・モルノ(Pincho Moruno,「ムーア人の串焼き」という意味の肉料理)をはじめとしたフードメニューに加え、リオハ産をメインとしたワインメニューも充実しているので、何杯もお代わりしてしまいそうな誘惑に駆られてしまうバーです。
落ち着いた雰囲気でお食事したい方は、14世紀には修道院として使われていた「ユーロスターズ・ロス・アグスティーノス」(Eurostars Los Agustinos)というホテル内のレストラン、エル・クラウストロ(Restaurante El Claustro)を訪れてみてはいかがですか。
なお、毎年6月29日のサン・ペドロ(San Pedro)の日には、アーロの北6kmほどの場所にあるビリビオ崖(Riscos de Bilibio)で、「ワインの戦い」(Batalla del Vino)が開催されます。
白いシャツを着て赤いスカーフを首に巻いた人々は、シャツが紫色になるまで、革袋(Bota)や水筒、水鉄砲などに入れたワインを他の人にかけます。
戦いとは言っても、ブラスバンドが演奏するなど、楽しい雰囲気のお祭りです。観光客も参加できるので、興味のある方は参加してみるのも良いかもしれません。
バスクーリオハ内陸の道は、サント・ドミンゴ・デ・ラ・カルサーダでフランスの道に合流し、一本になるのですが、バスク州からラ・リオハ州を経由せずカスティージャ・イ・レオン州(Castilla y León)に抜け、ブルゴス(Burgos)に到着するという別ルートもあります。
最後に
これまで世界遺産に関連したスポットをご紹介してきましたが、ログローニョからアーロの間にも、有名なスペインワイン産地がいくつかあります。
特にブリオネス(Briones)にあるボデガス・ビバンコ(Bodegas Vivanco)内のワイン文化博物館(Museo de la Cultura del Vino)や18世紀末からワインの商業化を目指していたボデガス・リオハナス(Bodegas Riojanas)があるセニセロ村(Cenicero, スペイン語で「灰皿」という意味)などは、ぜひ訪れていただきたいスポットです。
セニセロ村には、6世代に渡って家族経営でワイン造りを行うボデガス・ムリージョ・ビテリ(Bodegas Murillo Viteri)もあり、予約制のテイスティング付きガイドツアーも開催されています。
気に入ったワインは自宅まで配送してもらえるので、ぜひ立ち寄ってみてください。