日本でも徐々に浸透しつつあるイースターはキリスト教の行事です。スペインはカトリック教が盛んな国で、イースターは非常に重要な行事としておこなわれます。今回はスペインのイースーターについて、伝統的な行事や料理、お菓子などもあわせて解説していきます。
スペインのイースターとは?
イースター(Easter)とはイエス・キリストが十字架にかけられ、処刑された日から3日目に復活したことを記念に祝う日で、日本では「復活祭」です。キリスト教徒にとっては生命の復活と繁栄を祝う春の最も重要な行事で、その重要さはクリスマスにも匹敵します。
イースターはスペイン語ではサンタ・セマナ(Semana Santa)と呼ばれその意味は「聖週間」です。イースターといえばカラーリングした卵やウサギなどのイメージでなんとなく、子供向けの楽しいイベント、という感じがするかもしれません。しかし、本来はキリストの死と復活がテーマで、スペインではとても厳かにおこなわれる行事なのです。
サンタ・セマナは、「春分の日以降の最初の満月の次の日曜日」と定められていて、2024年のセマナ・サンタは、3月24日から31日に開催されます。
サンタ・セマナで開催される行事
セマナ・サンタはイエス・キリストがエルサレムに入城し、受難、その後復活するまでの1週間にわたる行事です。1週間の中で、聖木曜日からの3日間が重要で、聖木曜日は7つの教会を訪れてキリストを思い感謝する日であり、聖金曜日には磔刑にされたキリストの苦しみを思って肉食を控えたり、食事を控えたりします。そして聖土曜日はろうそくを灯して日曜日の復活祭を待ちます。
セマナ・サンタでは毎日各地でプロセシオン(Procesión)と呼ばれる宗教行列がおこなわれます。プロセシオンでは教会に所蔵されている像が載ったパソ(Paso)という山車を、コスタレロ(Costaleros)と呼ばれる人たちが担いでゆっくりと行進をします。パソには磔にされたキリスト像や涙を浮かべたマリア像などのほか、聖書に出てくるキリストの苦難と復活に関わるさまざまな場面を再現した絢爛豪華な像が載せられます。そのため、プロセシオンには非常に荘厳であり、かつおどろおどろしい雰囲気があります。そんな雰囲気を更に助長させるのが、山車を先導するペニテンテ(Penitentes)、その名も苦行者と呼ばれる人達です。ペニテンテはカピロテス(Capirotes)という目の部分だけがくり抜かれた三角頭巾をかぶっています。その不気味な装束は、アメリカの白人至上主義団体、クー・クラックス・クラン(KKK)のメンバーが真似をしたことでも有名です。
プロセシオンの山車の重さは1,000キロ超ほどもあることは珍しくなく、コスタレロたちはキリストが受けた苦難を体感しながら何時間も行進します。行進はそれぞれの教会から街の中心にあるカテドラルまで行われることが多く、大きな十字架がパレードの中心となり、宗教音楽を奏でる楽隊が雰囲気を盛り上げます。
スペイン各地にはそれぞれの地域ならではのプロセシオンがありますが、スペイン北部ガリシア地方には、キリストやマリア像のかわりに、なんと生きた人が入った棺桶を担ぎ、プロセシオンをおこなう村があるそうです。なんでも、棺の中に入る人たちは一度死に直面した人なのだとか。サンタ・セマナに参加することで生命の危機から生還したことに対して神に感謝を捧げるという意味があるそうです。
セマナ・サンタには、人類の罪の身代わりとなり、処刑されたキリストの苦痛を感じる期間という意味合いがあります。普段はお酒とパーティが大好きなスペイン人ですが、サンタ・セマナでは豪勢な山車が音楽に合わせて行進していても、静かにその様子を見守ります。
セマナ・サンタの期間はスペインでは大型連休となります。スペインは人口のほとんどがカトリック教徒ですが、信仰熱心な人の割合は年々減ってきています。都市部などでは宗教行事に参加しないスペイン人も多く、セマナ・サンタの期間は日本のゴールデンウィークのように旅行に出かける人も多いようです。
セマナ・サンタで食べられる料理・お菓子
クリスマスはキリストの誕生を祝う宗教行事なのでご馳走を食べますが、セマナ・サンタはキリストの苦悩と死に寄り添う行事です。そのため、クリスマスとは反対にふだんよりも質素な食事内容を心がけることになっています。とくにキリストが弟子のユダに裏切られ、ローマの憲兵に逮捕されたとされる聖木曜、キリストがゴルゴダの丘で磔刑に処せられ死んでしまった聖金曜の2日間は完全な喪に服します。また、敬虔なカトリック教徒では2日間だけでなくセマナ・サンタの1週間肉食は避け、アルコールも飲まないのです。
ポタへ・デ・ビヒリア(Potaje de Vigilia)
タラの塩漬け、ひよこ豆、ホウレンソウ、ゆで卵などを使う聖金曜日に食されるシチューです。
セマナ・サンタで肉の代わりに食べられるのが魚です。とくに、海から遠い内陸部ではタラの塩漬けを使った料理がセマナ・サンタの定番。ポタへ・デ・ビヒリアのほかにも揚げ団子やクリームコロッケなど、タラを使った料理が人気です。
ソパ・デ・アホ(sopa de ajo)
ソパ・デ・アホはセマナ・サンタでよく食べられるスープです。具はニンニク、パン、卵のみなどで非常に素朴ですが、なんだか心まで温まるような味わいです。
トリハス(Torrijas)
セマナ・サンタではカトリックの教えに基づき、お菓子を食べる伝統もあります。トリハスはセマナ・サンタを代表するフレンチトーストに似たお菓子で、牛乳、スパイスや蜂蜜入りワイン、卵などをパンに浸し、ひたひたになったパンを揚げて作ります。セマナ・サンタ以外でも朝食やデザートの定番として人気です。フレンチトーストのように、硬くなったパンを使うのが美味しく作るポイント。少し寝かせて冷たくなって食べるとさらに美味しくいただけます。
レチェ・フリータ(Leche Frita)
スペイン北部の伝統的なお菓子で、日本語に訳すと「揚げミルク」。牛乳、小麦粉、卵、砂糖、シナモンとレモンの皮を削ったもの混ぜてクリーム状にし、冷蔵庫で冷やして固め、小麦粉をまぶして揚げて作ります。近年ではセマナ・サンタだけでなく他の季節にも食べられるようになった人気のお菓子です。
モナ・デ・パスクア(Mona de Pascua)
カタルーニャ州(Catalunya)、アラゴン州(Aragón)、バレンシア州(Comunitat Valenciana)、そしてムルシア州(Comunidad Autónoma de la Región de Murcia)の一部では、セマナ・サンタにモナ・デ・パスクアというパンを食べる習慣があります。バレンシア州やムルシア州では甘いブリオッシュ生地の上にゆで卵が飾られ、カタルーニャ州ではチョコレートの卵、またはチョコレートでできたフィギュアを飾ります。
ブニュエロス(Buñuelos)
ブニュエロスはドーナツのようなお菓子で、カスタードクリームをオリーブオイルで揚げて作らります。ふだんのブニュエロスはかぼちゃを練り込んで作られますが、セマナ・サンタの時期には白ワインやレモンの皮やアニスなどをいれたブニュエロスが食べられます。もし、飲みきれないスペインワインの白があったらセマナ・サンタのブニュエロスを作ってみてもいいかもしれませんね。
ロスキリャス(Rosquillas)
アニス酒とオレンジやレモンの皮を入れた生地をオリーブオイルで揚げた、どっしりした感じのドーナツです。
まとめ
スペインのイースーターについて、伝統的な行事や料理、お菓子などもあわせて解説しました。スペイン各地で行われるセマナ・サンタの行事を見学しつつ、各地のスペインワインや伝統料理を楽しむ旅をするのもいいかもしれませんね。