スペインの大晦日の風物詩、幸運の12粒のぶどうとは? スペインの大晦日の風物詩、幸運の12粒のぶどうとは?

スペインの大晦日の風物詩、幸運の12粒のぶどうとは?

日本では大晦日と言えば除夜の鐘と年越しそばですが、スペインでは鐘と共にぶどうを食べる習慣があることをご存知でしょうか?今回は大晦日にスペインで行われる独特の習慣、12粒のぶどうについて解説します。

12粒の幸運のぶどう

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スペインでは12月31日の「ノチェビエハ(Nochevieja、大晦日)」に12粒のぶどうを食べる「ドセ・ウヴァス(Doce uvas /12粒のぶどう)」と呼ばれる習慣があります。

ドセ・ウヴァスでは、カウントダウンに打ち鳴らされる12回の鐘「ドセ・カンパナーダス(Doce campanadas)」が1回鳴るたびに、ぶどうを1粒食べます。12の数には、新年に訪れるそれぞれの月の幸運を祈るという意味が込められています。また、鐘が鳴り終えるまでに12粒全てのぶどうを食べ終えられたら新年に幸運がもたらされる、とも言われています。

ぶどう12粒、と聞くとそれほど難しくないように聞こえるかもしれません。

「節分の時の、年齢の数だけの豆、に比べれば簡単でしょう?」と(年齢を重ねた)日本人なら連想する人もいるのではないでしょうか。しかし、種無しぶどうの普及以前には至難の技だったのです。

カウントダウンの鐘は3秒に1回鳴ります。そして、それに合わせて食べるのはかつてはバレンシア州(Comunitat Valenciana )、アリカンテ(Provincia de Alicante)産の「アレド(Aledo)」という品種の白ぶどうであることがほとんどでした。アレドはマスカットよりも小粒で、種がたっぷりと入っています。このぶどうの皮と種を吐き出しながら、3秒の間1粒食べるのは大変なことなのです。

しかし近年では種なしぶどうの開発が進み、12月になると種無しで、しかも皮が薄くて食べやすいぶどうを12粒入りのパックにして売り出すようになりました。また、12粒入りの皮ごと食べられるぶどうの缶詰も登場しています。それでも種無しぶどうは早い者勝ちで、大晦日当日には売り切れてしまうこともあるようです。ちなみに、12粒のぶどうを模した12粒のぶどうグミも売り出されていて、お土産品としても人気があります。

ただ、たとえ種無しぶどうを用意したとしても、12回の鐘が鳴り終えるころには口の中はぶどうでパンパン!という事態になることも多いようです。しかしそのちょっとしたチャレンジが面白く、盛り上がるイベントとしてお祭り好きのスペイン人の間に定着したのでしょう。家族みんなでテレビ放送の鐘に合わせ、または広場に集まってぶどうを頬張りながら賑やかにカウントダウンをするのが、スペインの新年の迎え方の定番となっているのです。

大晦日のカウントダウンの場所としてスペインで最も有名な場所がマドリード(Madrid)の「プエルタ・デル・ソル(Puerta del Sol/太陽の門)」です。マドリード の心臓部ともいえる広場で、広場正面のマドリード州首相公邸には大きな時計塔があり、カウントダウンに合わせ大勢の人がぶどうを持って集まります。集まる人の中には仮装をする人も少なくありません。

この時計の様子はテレビ中継され、家族で集まって画面を見ながら12回の鐘の音に合わせてぶどうを食べます。そして、鐘が鳴り終わったら「フェリス・アニョス・ヌエボ(¡¡Feliz año nuevo!!/新年あけましておめでとう!)」と言ってみんなで抱き合ったり頬にキスをしたり、カヴァで乾杯したりして新しい年を祝う、という光景が広場でもテレビの前でも繰り広げられるのです。

12粒の幸運のぶどうの起源とは?

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12粒の幸運のぶどうの起源には2つの説があります。

まず1つ目はアリカンテで1909年にぶどうが大豊作だったことを起源とする説です。その年はぶどうがありあまるほどだったため、困った生産者がぶどうを売るために、「大晦日にぶどうを食べると幸運が訪れる」というキャンペーンを打ちました。これが大当たりし、以降12粒入りのぶどうのパックが大晦日に合わせて販売されるようになった、というのです。

2つ目の説は1880年にスペインの上流階級の習慣をまねたことから広がったのが起源とする説です。19世紀後半、スペインの上流階級はフランスの習慣をまね、ぶどうとカヴァ(Cava)で新年を祝うようになっていました。これをマドリッドの庶民がさらにまね、プエルタ・デル・ソルで鐘の音を聞きながらぶどうを食べ始めたのをきっかけに、その後の12粒の幸運のぶどうの習慣になったというのです。

1880年当時のマドリッドには支配階級であったフランスへの反発から生まれた、下町流儀を根幹としたナショナリズム「マヒスモ(Majismo)」が流行していました。そのため、こちらの説の起源にはシャンパンではなくぶどうだけで新年を祝うことで上流階級への皮肉の意味も込められていた、という当時の背景も関係すると考えられます。

ちなみに、当時のマヒスモの流行はスペインの画家、フランシスコ・ホセ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテス(Francisco José de Goya y Lucientes)の絵画「アンダルシアの散歩道(Elpaseo por Andaluca)」や「裸のマハ( La Maja desnuda)」などの芸術となって女性を中心に上流階級にまで伝わっていきました。王国貴族の中にはマホ・マハ(Majo,Maja/小粋なマドリード男、娘)に変装して庶民のカフェや賭博場、闘牛場に出入りした者もいたと伝えられています。大晦日の夜に変装しプエルタ・デル・ソルまで出かけ、ぶどうを12粒頬張ったスペイン貴族もいたのかもしれません。

1880年起源説を証明するように、マドリードの新聞、「ラ・イベリア(La iberia)」誌の1893年1月1日付けの紙面では「マドリードでぶどうを食べる習慣がある」と伝えています。

さらに、メキシコの新聞、「エル・インパシア(El impacia)」誌の1897年1月1日の紙面でも、「ラス・ウヴァス・ミラグロサス(Las uvas milagrosas/奇跡のぶどう)」というタイトルで、「深夜0時に鐘の音に合わせて12粒のぶどうを食べることは安いため、誰にでもできる」というような内容の記事を載せています。

また、マドリードで12粒のぶどうを食べる習慣が広がったのには、マドリード市のあるちょっとポンコツ?な条例も後押ししたようです。

マドリードでカウントダウンにぶどうを食べる習慣が普及する以前、外に出て大騒ぎをするのは大晦日ではなく、1月6日のレジェス・マゴス(Reyes Magos)でした。レジェス・マゴスはキリストの生誕の際に贈り物を届けに訪れた東方三博士の日として古くからスペインで祝われるています。子供たちが贈り物をもらったりする日でもあり、クリスマスシーズンの締めくくり的な日でもあるのです。

この1月6日に路上で酔っ払って迷惑をかける人が多い、ということで、1882年にマドリード市役所がこの日に通りに出て大騒ぎする人に5ペセタの罰金を科しました。

その結果、何が起きたかというと、今度は大晦日にプエルタ・デル・ソルに出かけ、ぶどうを食べて盛り上がるマドリード人が増えた、というわけなのです。

1915年、スペインの新聞「エル・パイス(El pais)」誌では1月1日の紙面で、「12粒のぶどうを食べる流行は、19世紀末に貴族階級の家族がキリスト教とは関係なく、縁起かつぎとして家庭やレストランで内輪で行っていた。20世紀に入り、それが街頭で行ううるさくて粗野な祭りになった」と記事にしています。

このように2つの説を並べてみると、19世紀末の貴族の流行に庶民文化が加わり、そこへぶどうの大豊作が重なり、庶民の習慣の変化も関係しながら12粒のぶどうを食べる風習がスペイン全土に伝わった、と考えるのが自然なようです。

スペインのクリスマスの過ごし方

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先ほどの項目でも述べたように、スペインのクリスマスシーズンは1月6日まで続きます。大晦日はスペインでは長く続くクリスマスイベントの一環、と言えるかもしれません。

カトリック国のスペインではクリスマスは宗教的な意味合いの強い伝統行事です。恋人がいる人でもどちらかの両親の家に行き、クリスマスを過ごすのが一般的です。

スペインでは11月に入るとすでに街はイルミネーションで彩られます。ショッピングセンターなどはベレン(Belén)という、13世紀からの歴史がある伝統的なクリスマス飾りが施されます。ベレンはスペインではクリスマスツリーよりも重要度の高い飾りで、家庭でもクリスマスには欠かせない存在なのです。

ベレンはキリストの生誕地、ベツレヘムを意味する言葉です。東方三博士がキリストを祝うシーンを再現したミニチュア飾りで、シンプルなものでは聖ヨセフと聖マリアと幼いキリスト3人だけの人形で、そこに天使や東方三博士、羊飼いなどが加わったり、なかにはジオラマ式に街の様子まで再現したものなどもあります。

もともとスペインでは12月8日の無原罪の御宿りの日から2月2日の聖燭祭までベレンを飾る習慣がありましたが、最近では1月6日を過ぎると片付けるところが多いようです。また、キリストの人形は12月24日の夜まで、東方の三博士の人形は1月6日まで飾らないなどのこだわりを持つ人もいるそうです。

12月24日のノチェ・ブエナ(Noche Buena /クリスマスイブ)には家族揃ってディナーを食べます。敬虔なカトリック信者であれば深夜0時前後に始まるミサ・デル・ガジョ(Misa del Gallo )に参加する人もいます。

クリスマスが家族で過ごすイベントである反面、年越しは友達と集まる人が多く、都市部ではカウントダウンパーティが数多く開かれます。なかにはカウントダウンは家でテレビを見ながら行い、その後でクラブやバルのパーティに出かける、という人も多いようです。しかし近年では新型コロナウィルスの影響で、大多数の人が家で大晦日を過ごすようになったようです。

なお、スペインでは12月25日と1月1日には全土で祝日となり、レストランやスーパーなどもほとんど定休日となります。

まとめ

大晦日にぶどうを食べる「ドセ・ウヴァス(Doce uvas /12粒のぶどう)」は、ワイン文化の盛んなスペインならではの習慣ですね。しかし場所も物も違えど、次の年を心新たに、幸福への願いを込めて迎えたい、という気持ちは万国共通なのでしょう。

次の大晦日はちょっとだけスペイン風を取り入れてカヴァを用意して、大切な人と年越しそばと除夜の鐘で新年を迎える、そんな過ごし方も良いかもしれませんね。

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