バスク州の世界遺産・新旧のカルチャーに触れる旅 バスク州の世界遺産・新旧のカルチャーに触れる旅

バスク州の世界遺産・新旧のカルチャーに触れる旅

スペインの中でも特に美食で知られるバスク州には、今でも地元の人の生活の足となっている橋と旧石器時代の貴重な洞窟壁画という、2つの対照的な世界遺産があります。(正確には、「サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路」の一部もありますが、こちらはガリシア州の世界遺産の文章で触れたいと思います。)

2つの世界遺産を巡るルートの途中には、ワインに関係したスポットも登場するので、観光とグルメを一挙に楽しんでみてはいかがですか。

鉄鋼の町ビルバオで有名建築家の橋めぐり

バスク州(Vasco)の北西に位置するビルバオ(Bilbao)は、ビスカヤ湾(Golfo de Vizcaya,英語だとビスケー湾,Bay of Biscay)に面し、かつ、鉄鉱石が採掘できる鉱山があったため、19世紀から20世紀半ばにかけて鉄鋼と造船の町として繁栄しました。

ビルバオは、現在でもバスク州で一番人口が多い、バスク州の中心都市です。

バスク初の世界遺産であるビスカヤ橋(Puente de Vizcaya)

芸術性と機能性を兼ね備えた技術が認められ、2006年、世界遺産に選ばれました。

ビスカヤ橋 スペイン  バスク州 世界遺産

ビスカヤ橋は、金属製では世界最古のトランスポーター橋(Transporter bridge,別名フェリーブリッジ, Ferry Bridge、運搬橋とも呼ばれる)です。

トランスポーター橋は、19世紀から20世紀初頭のヨーロッパやアメリカ大陸、アフリカで建設された橋で、現存するのは10基未満です。

ビスカヤ橋は、ビルバオ出身でエッフェル(Alexandre Gustave Eiffel)の弟子だったアルベルト・パラシオ・イ・エリサゲ(Alberto Palacio y Elissague)が設計を担当し、フランス人のフェルディナンド・ジョセフ・アルノディン(Ferdinand Joseph Arnodin)が建設を担当しました。

2人が特許を取ったトランスポーター橋は、トラス(truss)構造(三角形の骨組みをつないだもの)の橋桁からケーブルにつながったゴンドラを吊り下げて、車や人を運べるようにした、吊り橋タイプの橋です。

ネルビオン川(Rio de Nervion) とイバイサバル川(Rio de Ibaizabal)が合流したビルバオ河口付近は船が頻繁に行き来するため、船の航行に支障がないよう、トランスポーター橋を架けることになりました。

ビルバオ河口付近の両岸(ゲチョ,Getxoとポルトゥガレテ,Portugalete)をつなぐ全長約160m、水面から橋桁までの高さが45mのビスカヤ橋は、1893年に開通しました。

ビスカヤ橋は、年間約600万人が使用する、生活に密着した橋です。この橋を使わないと、20km迂回する必要があるため、住民には欠かすことができない存在です。

ゴンドラには車6台と6台のオートバイか自転車、200人までが乗車可能。8分間隔で運行し、対岸まで1分半で到着します。

橋桁部分は歩道になっていて、対岸まで歩いて渡ることも可能です。

ですが、歩道へ向かう展望エレベーターは、11月から3月の平日はゲチョ側しか動いていないため、その時期は残念ながら歩いて渡ることができませんので、ご注意ください。

20世紀半ばまで鉄鋼や造船で潤っていたビルバオですが、1980年代には町は衰退の一途をたどります。

再び活気を取り戻そうと、ビルバオは建築の力を借りました。

まずは、ノーマン・フォスター(Norman Foster)の事務所が、1995年に地下鉄(Metro de Bilbao)を作り、「あべのハルカス」で知られるシーザー・ペリ(César Pelli)がアバンドイバラ(Abandoibarra)地区の再開発を担当(2012年には、高さ165mのイベルドローラ・タワー(Torre Iberdrola)を完成)。


そして、フランク・ゲーリー(Frank Owen Gehry)が設計したビルバオ・グッゲンハイム美術館(Museo Guggenheim Bilbao)が1997年にオープンしたことで、ビルバオは再び脚光を浴びることになります。


1度見たら忘れられないインパクトのある外観が特徴のビルバオ・グッゲンハイム美術館。チタン(Titan)とスペインの石灰岩、ガラスを使い、寂れた工場跡地に建てられました。


サルべ橋(Puente de la Salve)

建設予定地を横切るように、1972年にスペインで最初にできた斜張橋(しゃちょうきょう,塔から橋桁まで斜めにケーブルをつなぐタイプの吊り橋)であるサルべ橋(Puente de la Salve)が架かっていましたが、フランク・ゲーリーはこの橋を美術館の一部として組み込みます。

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2007年には、美術館のオープン10周年を記念し、ダニエル・ビュラン(Daniel Buren)がアルコス・ロホス(Arcos rojos)(スペイン語で「赤色のアーチ」を意味する)というアート作品をサルべ橋に設置しました。


ビルバオ・グッゲンハイム美術館には、ピカソ(Pablo Ruiz Picasso)作ゲルニカ(Guernica)を展示するためのスペースも設置されていますが、結局、ゲルニカがここに移されることはありませんでした。


ジェフ・クーンズ(Jeff Koons)作のパピー(Puppy)や六本木ヒルズでもおなじみのルイーズ・ブルジョワ(Louise Bourgeois)作ママン(Maman, Mamáとも呼ばれる)などが、ビルバオ・グッゲンハイム美術館の見どころです。


フランク・ゲーリーの功績を称え、2015年にアレナス&アソシアドス(Arenas & Asociados)がソロサウレ島(Isla de Zorrozaurre)に架けた橋はフランク・ゲーリー橋(Puente Frank Gehry)と名づけられました。


フランク・ゲーリーと共に、ビルバオ・グッゲンハイム美術館のコンペに参加した磯崎新氏がスペイン人建築家と共に設計したイソザキアテア(バスク語でIsozaki Atea,スペイン語の「Puerta Isozaki」から磯崎ゲートとも呼ばれる)は、2008年にオープン。


スビスリ橋(Puente Zubizuri)

旧市街のある右岸側からイソザキアテアのあるウリビタルテ(Uribitarte)地区に向かう手前には、1997年に完成した、スペインの有名建築家サンティアゴ・カラトラバ(Santiago Calatrava Valls)設計のスビスリ橋(Puente Zubizuri)が架かります。バスク語で「白い橋」を意味するスビスリ橋は、船の帆のように見えるアーチや床に敷かれたガラス製のタイル、湾曲した歩道などが特徴です。

スビスリ橋 バスク州 世界遺産

 

サンティアゴ・カラトラバは、2000年に完成したビルバオ空港(Aeropuerto de Bilbao)や

バスク州アラバ県(Álava)ラグアルディア(Laguardia)にあるボデガス・イシオス(Bodegas Ysios)の設計をしたことでも知られています。


ビルバオには、ワイン貯蔵庫として使われていた建物を、フィリップ・スタルク(Philippe Starck)などが再設計した、「アスクナ・セントロア」(Azkuna Zentroa,旧名はアルオンディガ,Alhóndiga)という複合施設もあります。


「アスクナ・セントロア」のアトリウムに建つ、どことなくユーモラスな43本の柱は、「イル・ポスティーノ」などの映画美術を担当したロレンツォ・バラルディ(Lorenzo Baraldi)がデザインしたものです。

 

石造りのアーチ橋・サン・アントン橋(Puente de San Antón)

左岸のビルバオ・ラ・ビエハ(Bilbao la Vieja)地区と右岸の旧市街カスコ・ビエホ(Casco Viejo)地区を結ぶのは、石造りのアーチ橋・サン・アントン橋(Puente de San Antón)です。

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カスコ・ビエホには、ヨーロッパ最大規模の屋内市場であるリベラ市場(Mercado de La Ribera)やタパスが食べられるバルが集まるヌエバ広場(Plaza Nueva)などがあるので、お腹がすいたら、立ち寄ってみてください。


なお、ビルボーツ(Bilboats)というツアー会社では、ビスカヤ橋を含むいろいろな橋を下から眺めることができる、120分のネルビオン川クルーズを運行しているので、興味がある方は参加してみるのも良いかもしれません。


洞窟めぐりとチャコリを楽しむ

アルタミラ洞窟 スペイン」バスク州 世界遺産

バスク州で2番目の世界遺産は、「アルタミラ洞窟と北スペインの旧石器時代の洞窟画」(Cueva de Altamira y arte rupestre paleolítico del norte de España)の構成要素であるサンティマミニェ洞窟(Cueva de Santimamiñe)、アルチェリ洞窟(Cueva de Altxerri)、エカイン洞窟(Cueva de Ekain)の3ヶ所です。

世界的に知名度が高いアルタミラは1985年、それ以外の17ヶ所は2008年にまとめて世界遺産に選ばれています。

ゲルニカの北約4kmの位置にあるサンティマミニェ洞窟の壁画は、13,000年以上前、後期旧石器時代、マドレーヌ文化(Magdalenian=マグダレニア文化)の時代に描かれたものです。

サンティマミニェ洞窟は、ユネスコ(UNESCO)の自然保護区であるウルダイバイ自然公園(Parque natural de Urdaibai)内にあるエレニョサール山(Monte Ereñozar)の南側中腹に位置し、1918年から1962年の間に発掘作業が行われました。いったん中止した後、2004年から発掘作業が再開されています。

洞窟内には、バイソン、馬など約50頭の絵が、黒い輪郭で描かれています。

2006年までは一般公開されていたサンティマミニェ洞窟ですが、現在は観光客が吐く二酸化炭素から洞窟壁画を保護するため、公開されていません。その代わり、3Dメガネを装着して、洞窟内を疑似的に探検することができます。

エカイン洞窟は、サンティマミニェ洞窟と同じく、後期旧石器時代、マドレーヌ文化の壁画が残されている洞窟です。

最寄りのセストア(Zestoa)の町から西に約1km向かった場所にあり、1969年に発見されました。

約70頭の動物像の内、64頭は岩に描かれたもので、残りの6頭は岩に刻まれたものです。それらの内、馬の群れの絵は、この時代の洞窟壁画の中で最高傑作の1つに数えられています。

洞窟壁画が描かれた当時(14,000年から13,000年前)は、農業や牧畜はまだ発明されていなかったため、人々は狩猟や釣りを行ったり、果物やハーブなどを取ったりして、食料を得ていました。

エカインは春に狩猟を行っていた場所で、氷河期の寒さから身を守るため、洞窟を生活の場として利用していたそうです。

現在、洞窟内を見学することはできませんが、事前予約制のガイドツアーに参加すれば、洞窟から600m離れた場所にある、「エカインベリ」(Ekainberri)という洞窟壁画のレプリカを展示する博物館を見学することができます。

3ヶ所目のアルチェリ洞窟は、エウスコトレン(Euskotren, バスク鉄道とも呼ばれる)のアイア・オリオ駅(Estación de Aia-Orio)から南へ約1km向かった場所にあります。

1956年、石灰岩を採石しようと、ダイナマイトを爆発させた際に洞窟が発見され、その6年後に調査が開始されました。

現在、アルチェリ洞窟は公開されていませんが、たくさんの遺跡と洞窟壁画(68頭のバイソンや7頭のトナカイ、6頭のヤギなど)が発見されたことで知られています。

特に、長さ4m、高さ2mの巨大なバイソンの絵や矢じりなどの武器類として使われたと考えられるフリントストーンなどが、アルチェリ洞窟を代表する発掘調査の成果物です。

洞窟の周辺でチャコリを飲もう!

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アルチェリ洞窟周辺は、D.O.チャコリ・デ・ゲタリア(Txakoli de Getaria ,バスク語でゲタリアコ・チャコリナ,Getariako Txakolina)の生産地でもあります。

チャコリは、白ならばオンダラビ・スリ(Hondarrabi Zuri)、赤ならばオンダラビ・ベルツァ(Hondarrabi Beltza) というぶどうを使って醸造します。

アルコール度数が通常のワインより低く、微発泡なのもチャコリの特徴です。

注ぐ時は、ボトルを高い位置に持ち上げ、グラスに勢いよく注ぎ込む「エスカンシアール」(escanciar)という方法を用いるのが一般的です。

チャコリのボデガは周辺に何ヶ所かありますが、その中で特におすすめなのが、アルチェリ洞窟から車で約7分の距離にあるボデガ・カチニャ(Bodega Katxiña)です。

ボデガ・カチニャは、オンダラビ・スリ100%の「チャコリ カチニャ」というチャコリのみを造る家族経営のボデガで、ボデガ内にレストランも併設しています。

チャコリ カチニャには、ロダバージョ(Rodaballos, イシビラメ)のグリル料理などのシーフード料理を合わせて、召し上がってみてください。


まとめ

ボデガ・カチニャのあるオリオの町から、サン・セバスチャン(San Sebastián,バスク語だとドノスティア,Donostia)までは、車や電車に乗れば、約20分で到着します。

名物のピンチョス(Pintxo)とワインの組み合わせやミシュラン(Michelin)三ツ星レストランの味を楽しみに、サン・セバスチャンまで足を延ばしてみるのも良いかもしれません。

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