海外ドラマとワイン~スペインドラマの中のワインの役割~ 海外ドラマとワイン~スペインドラマの中のワインの役割~

海外ドラマとワイン~スペインドラマの中のワインの役割~

動画配信サービスが普及し、日本にいながらスペインのドラマを簡単に見ることができるようになりました。

今回は2つのドラマを取り上げ、ドラマ内でワインが果たしている役割をご紹介していきたいと思います。

ネタバレがあるため、ドラマをまだご覧になっていない方は、見終わってから読んでくださるとより楽しめるはずです。

ペーパーハウス~ワインは感情と収入のバロメーター

「ペーパーハウス」(La casa de papel)は、動画配信サービス・ネットフリックス(Netflix)のオリジナルドラマです。

2017年、スペインの民放テレビ局アンテナ3(Antena 3)でシーズン1の放送が開始になり、シーズン3からNetflixオリジナルドラマとして制作されています。

12月3日に全世界で公開されるシーズン5の後半で、ドラマがフィナーレを迎えました。

要約すると、ダリの仮面をかぶって、赤いつなぎを着た強盗たちが、造幣局(シーズン3からはスペイン銀行)に立てこもり、お金(シーズン3からは金)を盗む話なのですが、登場人物の人間模様が詳細に描かれているため、犯罪者ながら応援したくなってしまいます。 

「ペーパーハウス」は、Netflixが集計しているGlobal Top 10の英語以外の海外ドラマ部門で、11月27日現在、2~4位に輝いている、人気作品です。

強盗たちは強盗を始める前、研修所に住み込んで、ニックネームが”教授(El Profesor)”という人物によるレクチャーを5ヶ月間受けます。(ちなみに、強盗たちには、名前が警察にばれないよう、世界の都市名のニックネームが付けられています)

同じ釜の飯を食う&お酒を飲み、時には恋愛関係にもなりながら、彼らは友情に似た絆を深めていきます。

ヒュー・ジョンソン(Hugh Johnson)著「ワイン物語」上巻第1章には、ワインを飲むと「不安は失せ、恐怖は退き、アイデアも楽々とわいてくる。恋人たちの愛はますます深まる。つかの間とはいえ、自分が全能になったような、神になったような気さえしてくる。」という言葉が書かれています。

実際には、8人の強盗のうち、その期間にワインを飲んでいたのは年齢が高めの3人のみで、他のメンバーはビールを飲んでいたのですが、アルコールはお互いの心を開くために、また、強盗をするという恐怖に打ち勝つために一役買ったようです。

強盗たちの捜査を行う刑事ラケル(Raquel Murillo)と教授は敵同士ながらだんだん魅かれあい、シーズン2の最後には、東南アジアのリゾートホテルで赤ワインをワイングラスで飲む関係へと変化していきます。

知り合った当初、ラケルは教授が犯人だと疑ったことを謝ろうと、バーへ誘いましたが、その時飲んでいたのは、飾り気のないロックグラス(Rocks Glass)に入った赤ワインでした。

友情以上恋人未満の関係から、親密な関係へと移行したことが、注がれているグラスを見ることでも理解できます。

造幣局強盗でリッチになった強盗たちは、シーズン3で約2年半ぶりに再集結し、船上ディナーと赤ワインを楽しみます。この時、赤ワインが注がれていたのは、シンプルなワイングラスでした。

研修所に再び終結した強盗のほとんどは、ディナーの際に、ワインがたっぷり入り、ぐいぐい飲みやすい、角張った大振りの色付きワイングラスで赤ワインを飲んでいます。気心が知れたメンバーばかりなので、気兼ねなく飲める、このカジュアルな雰囲気のグラスを選択したのかもしれません。

なお、研修所のロケ地として使われたのは、主に結婚式場として使われている、マドリード郊外のフィンカ・エル・ガスコ(Finca El Gasco)です。

シーズン4では、強盗の一員であるベルリン(Berlin)の結婚式が開かれ、お祝いの席にふさわしいシャンパン(Champagne)と赤ワインが振舞われます。

シャンパンが注がれていたのは、飲み口が外側に広がっているフルートグラス(Flute Glass)でした。

中年世代のベルリンの好みは赤ワインなのですが、若い新婦の希望に沿うため、あえて女性好みのシャンパンをチョイスしたのだと思います。

自分勝手なところもあるベルリンの、愛情が感じられるシーンでした。

情熱のシーラ~人生のターニングポイントには、いつもワインがあった~

次にご紹介する「情熱のシーラ」は、NHKでも放送されていたことがあるので、日本で最も知られたスペイン発の海外ドラマと言えるかもしれません。

「ペーパーハウス」と同じくアンテナ3で2013年から2014年にかけて放送され、日本では2015年に放送されました。

原題は「El tiempo entre costuras」(「縫い目の間の時間」という意味)です。

スペイン内戦直前の時代、一目ぼれをしたお針子のシーラ(Sira Quiroga)は、恋人と共に事業を始めるため、マドリード(Madrid)を出て、当時スペイン領だったモロッコ(Morocco)北部へと渡りますが、恋人に捨てられ、財産を持ち逃げされます。

警察署長の紹介で、ある下宿で暮らし始めたことから、運命が大きく動き出し、上流階級のお客様を相手に高級婦人服のショップをはじめることに。

その店で知り合ったイギリス人ロザリンダ(Rosalinda Fox)と友人になり、スペインが第二次世界大戦に参加することを食い止めるため、スパイ活動を始めるように依頼されます、というのが「情熱のシーラ」の簡単なあらすじです。

ちなみに、「情熱のシーラ」には、「ペーパーハウス」のナイロビ役(Nairobi)とアルトゥーロ役(Arturo Román)の俳優さんが出演していました。

「情熱のシーラ」では、ワインがドラマの中で重要な役目を果たしています。

お針子一筋で男性との出会いがなかったシーラは、友達に連れて行ってもらったお祭りで、公務員を目指すイグナシオ(Ignacio)と出会い、コップに注がれたベルモット(Vermut)をおごってもらいます。

イグナシオにあやまってベルモットをかけられたシーラは、しみ抜きのために「重曹か炭酸水か塩が要る」からと言い置き、自宅に向かいましたが、イグナシオがすべてを用意して追いかけてきたことがきっかけで、交際が始まりました。

その後、情熱的なラミーロ(Ramiro Arribas)に出会い、モロッコへと駆け落ちしたシーラでしたが、ラミーロは商売を成功させるため、と言い訳しながら、義理の父から譲り受けたシーラの財産で知らない客に酒をおごり、遊蕩三昧を繰り返します。

その時、ルームサービスで頼んでいたのは、高級シャンパンでした。

ラミーロとの恋に破れた後に住みだした下宿では、テラス席に置かれた長テーブルに集まって食事するのが恒例でした。おいしい家庭料理とモロッコグラス(Moroccan Glass)に注がれた赤ワインで、下宿人たちの本音の会話がはずみます。

ロザリンダ、ローガン(Marcus Logan)、隣人のフェリックス(Félix)、という気の置けない仲間たちと浜辺でピクニックした時のお供は、アルコール度数が低い白ワイン。ワインの効力か、ダンスや水遊びをして、はしゃいでいます。

マドリードに戻ったシーラが義理の父と久しぶりに出会ったのは、お店の顧客に誘われた年末のパーティーでした。シャンパンを飲みながら会話を交わした後、ソル広場(Puerta del Sol)に移動し、鐘に合わせて12粒のぶどうを食べた後、抱擁します。

12粒のぶどうは1900年代初めから行われている行事で、願い事を祈りつつ、鐘に合わせてぶどうを食べきることができると、願い事が叶うといわれています。

年末年始にマドリードを訪れる機会があったら、チャレンジしてみるのも良いかもしれません。

その後、スパイ活動の一環で、ポルトガルの大実業家ダ・シルバ(Da Silva)と取引をすることになるシーラ。レストランでの1対1の商談の際には、実用的なショートステム(Short Stem)のグラスで赤ワインを飲んでいます。

この場面を見ていて気づいたのですが、グラスはステム(Stem、足の部分)を持つことが一般的だと思っていたのですが、海外ではボウル(Bowl、胴の部分)を持って楽しむのが一般的な様です。ステムが長い場合も、シーラはすべてボウルを持って飲んでいました。

一瞬恋心を抱いたローガンと再会したのは、リスボン(Lisboa)にある、1905年創業のブラジレイラ(A Brasileira)というカフェ。1階はカフェ、地下はレストランになっているので、ワインも楽しめます。

ダ・シルバと夜にダンスホールに出かけた時は、カットガラス(Cut Glass)のフルートグラスで、シャンパンを飲んでいます。ダ・シルバは、シーラと付き合うことを意識したのではないでしょうか。

ロザリンダがリスボンで開いたクラブに連れて行かれた時は、極上のシャンパンを注文したダ・シルバ。かなり、シーラにゾッコンなことがうかがえます。

ダ・シルバ家でドイツ人と商談兼食事会を開いた際には、カップルの相手として、もちろんシーラを選びました。

食事会では、カットガラスのワイングラスに注がれた赤ワインが、食事と共に登場。ダ・シルバ家からマイクロフィルムを持ち出すのが目的のシーラは、おしゃべりに夢中になったふりをして、わざとワンピースに赤ワインをこぼします。

トイレに行くと嘘をつき、マイクロフィルムを無事に盗んだシーラ。食事の席に戻り、話に加わります。デザートに合わせて飲んでいたのは、クープグラス(Coupe Glass)に注がれたシャンパンです。

食後は、商談をする男性陣の隣の部屋に場所を移し、トランプに興じる女性陣。しかし、シーラだけは、商談の内容を聞こうと、耳がお留守状態に。

女性陣がスイス産のチョコレートのお供に飲んでいたのは、白ワインか貴腐ワインでしょうか。ポルトガルなので、ポートワイン(Port Wine)の白を飲んでいるのかな、と考えたのですが、白は食前に飲むのが一般的で、デザートに合わせるのは赤だそうなので、ポートワインではないようです。

マドリードに戻った後、ローガンを義理の父の自宅に招き、自らの正体を明かしたシーラ。その時は、カットガラスのワイングラスに注がれた赤ワインで乾杯しました。

スペイン人のシーラは「チンチン」(Chinchin)、イギリス人のローガンは「チアーズ」(Cheers)と、掛け声をかけています。

ちなみに、ドラマの始まりでイグナシオと乾杯した時は、イグナシオの「サルゥッ」(Salud)という掛け声に合わせ、シーラも「サルゥッ」と言っていました。

「チンチン」と「サルゥッ」の違いですが、「チンチン」はグラスのぶつかる音を表し、お祝いごとに用いられることが多いようです。まだ出会ったばかりのイグナシオと深い関係のローガンの違いが、この挨拶にも表れているようです。

また、シーラが乾杯の掛け声を先にかけたことから、シーラのほうが恋愛に対する主導権を握っている様子も感じ取れます。

以上、「情熱のシーラ」でワインが登場するシーンをご紹介してきました。いろんな場面にワインが登場するため、このドラマはワインが無ければ成り立たなかった、と言っても過言ではないでしょう。

「情熱のシーラ」の原作者マリーア・ドゥエニャス氏(Maria Dueñas)は、2021年に「Sira」というタイトルの続編を出版したそうです。日本語に翻訳された本やドラマの続編も、待ち遠しくなってしまいます。

なお、「情熱のシーラ」は2021年11月現在、アマゾン・プライム・ビデオ(Amazon prime video)で見られますが、同じくアマゾン・プライム・ビデオには、マリーア・ドゥエニャス氏原作のオリジナルドラマ「ラ・テンプランサ ~20年後の出会い~」(La Templanza)というドラマも登録されています。

シェリー酒(Sherry)で知られるヘレス・デ・ラ・フロンテーラ(Jerez de la Frontera)のボデガが舞台の1つになっているので、興味のある方はご覧になってみてはいかがでしょうか。

最後に

スペイン ドラマ


スペインのドラマに欠かすことができないスペインワイン。

ワインがどういうシチュエーションで、どんなグラスで飲まれているかをチェックしながら、スペインの海外ドラマを見るのも楽しいかもしれません。

スペイン制作の海外ドラマのお供には、やっぱりスペインワインが一番です。

ワイングラス片手に、海外ドラマ鑑賞するのも良いかもしれませんね。

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