スペインで修業した日本人シェフ特集~三者三様のスパニッシュの形~ スペインで修業した日本人シェフ特集~三者三様のスパニッシュの形~

スペインで修業した日本人シェフ特集~三者三様のスパニッシュの形~

スペインで修業した日本人シェフ特集~三者三様のスパニッシュの形~


現在、スペインにはなかなか行きづらい状況にありますが、スペイン料理店で本場の味に舌鼓を打てば、スペインに行った気分になれるかもしれません。

今回は、スペインで修業経験のある、シェフ3人のお店をご紹介します。スペインワインのラインナップが充実したお店が多いので、料理だけでなく、ワインも目当てで、お店を訪れてみませんか。

<こだわり野菜を使った料理とスペインワインの充実ぶりが魅力の名店>


西麻布にある「フェルミンチョ」(FERMiNTXO)は、オープンから10年を迎えたスペイン料理のレストランです。

出身地の石川県のレストランで働いた後、バスク州(Vasco)のアラメダ(Restaurante Alameda)、カタルーニャ州(Catalunya)のフォンダ・サラ(Fonda Sala)、ネイチェル(Restaurante Neichel)、カンファベス(El raco de Can Fabes)など、ミシュランの星付きレストランで修業した作元慎哉シェフ。

帰国後は、石川県でシェフを務め、その後、2011年に現在の場所にお店をオープンしました。

お店の前にディスプレイされた巨大な樽とタイル画(Azulejo,アスレホ)が、気さくな雰囲気を漂わせる「フェルミンチョ」。

料理に使われるのは、石川県から取り寄せている、こだわりの有機野菜です。動物由来の肥料を使っていないため、ヴィーガン(Vegan)の方でも安心して食べられますよ。

一流レストラン仕込みの卓越した技術力と旬の食材を一ひねりした独創性が光る料理には、スペインワイン中心に常時300種以上の在庫を誇る、ワインを合わせていただきましょう。

ワイン・コレクションの中には、シェフ自ら「フィンカ・サン・ブラス」(Finca San Blas)を訪れ作ったオリジナルワインも含まれています。

他にも、

クリプタ(Kripta)

パゴ・デ・ロス・カペジャーネス クリアンサ(Pago de Los Capellanes Crianza)

アンブルッシュ・ダ・バィ・リャック(Embruix de Vall Llach)

パゴ・デ・カラオベハス(Pago de Carraovejas)

など、おすすめワインがいっぱいで、どれにしようか迷ってしまうかも。

店内には、長いひしゃくのようなベネンシア(Venencia)を使い、シェリーを注ぐ技術を持ったベネンシアドール(Venenciador)もいるので、シェリー酒にチャレンジしてみるのも良いかもしれませんね。

一品メニューから本格的なコース料理まで、料理の幅が広いので、普段使いも、晴れの日にも使える、重宝するお店です。

<お米料理ならおまかせ!アットホームな空間でスペイン料理とスペインワインを>

次にご紹介する「アロセリア ラ・パンサ」(Arrocería La Panza)は、銀座1丁目にある、2017年にオープンしたお米料理専門のスペイン料理店です。

スペイン語で「太鼓っ腹」を意味するラ・パンサが店名になっていることもあり、カジュアルな雰囲気の中、家族や友達同士で料理をシェアしながら、お腹いっぱいスペイン料理を堪能することができます。

お米料理の中で特に充実しているのはパエリア(Paella)で、その数、10種類以上。

パエリア発祥の地バレンシア州(València)の定番である、うさぎ肉と鶏肉入り(Paella valenciana)はもちろん、カタルーニャ州のイカ墨のパエリア(Arroz negro)、汁気がある、ガリシア州(Galicia)のオマール海老のパエリア(Arroz con bogavante)など、いろんな地方のパエリアがそろっています。

中でも、シェリー酒にも使われるペドロ・ヒメネス(Pedro Ximénez)のソースを塗った「鴨肉とポルチーニ茸のパエリア」(Arroz con pato)やバスク州の「土鍋で炊いたアサリの白いパエリア」(Arroz con almejas)は、お店の一押しメニューです。

他にも、”アロス・カルデロ”は、深めの鉄鍋カルデロ(Caldero)で調理する雑炊のようなお米料理や、細くて短いパスタで作るパエリア・フィデウァ(Fideuá)など、日本ではあまりお目にかからないメニューも食べることができますよ。

お米料理は一品が2~3人分なので、2人以上での訪問をおすすめします。

お1人様の場合は、コース料理を注文すれば、メニューは限られますが、お米料理を食べることも可能です。

ワインは土着品種のぶどうで造られたものを中心に、肉料理にぴったりなパゴ・デ・カラオベハス(Pago de Carraovejas)など、5~60種類取り揃えています。

かつて在籍していた小林 悟シェフ(現・emanオーナーシェフ)は、お店をオープンする前、1999年からミシュラン(Michelin)の星を獲得しているエル・ボイオ(El Bohío)で修業しました。

マドリード(Madrid)からトレド(Toledo)へ向かうルート上にあるエル・ボイオは、現在の3代目シェフ・ペペ・ロドリゲス氏(Pepe Rodríguez)のおばあ様とおば様が1934年にオープンした、家族経営のレストランです。

ちなみに、ペペ・ロドリゲス氏は、「マスターシェフ」(MasterChef)というテレビ番組のメイン審査員として人気のシェフとしても知られています。

もともとは「エル・ブジ」(El Bulli)のような分子ガストロノミー(Molecular Gastronomy)に興味があった小林シェフですが、伝統料理を現代的に解釈し、繊細に再現するエル・ボイオで働いたことで、味が一番で、かつ、かっこ良い料理を目指すことになりました。

現在、「アロセリア ラ・パンサ」は、「5,000円以下で、コースやアラカルトなどの食事ができる、コストパフォーマンスの高い、おすすめのレストラン」が基準の、ミシュランガイド(Michelin Guide)のビブグルマン(Bib Gourmand)に選ばれています。

どこかスペインの食堂を思わせる店内は、居心地満点。

普段使いできる家庭的なレストランへ、本格的なスペイン料理を味わいに出かけてみてはいかがでしょうか。


<ここでしか味わうことができない、地縁を活かしたオリジナルのスペイン料理>


最後にご紹介する「アコルドゥ」(Akordu)は、奈良公園の東大寺の敷地内に建つ、2016年オープンのレストランです。

奈良市の富雄に2008年オープンしたお店の後継店で、その後、生駒市の「アバロッツ」(Abarotz)を経て、再び同じ名前のお店をオープンしました。

川島宙(ひろし)シェフは、ホテル西洋銀座など、国内のレストラン数店で働いた後、34歳でスペインに渡り、「ムガリッツ」(Mugaritz)で10ヶ月修業しました。

日本で初めてコンシェルジュサービスを導入した、伝説のスモールラグジュアリーホテルであるホテル西洋銀座。

ワイン評論家ロバート・パーカー・Jr氏(Robert M. Parker, Jr.)とジョエル・ロブション氏(Joel Robuchon)のコラボイベントをアジアで初めて行うなど、新しい試みを行いました。

ちなみに、ホテル西洋銀座の初代チーフソムリエを務められていたのは、田崎真也氏です。

筆者は川島シェフが勤務されていたフランス料理のレストランには行ったことがありませんが、地下1階にあったイタリアンのレストランに20代のころ行き、高級ホテルでありながら、カジュアルな雰囲気で居心地が良かったので、何回かリピートしたことがあります。

正統派のレストランで働きながら、川島シェフはもっと自由に自分の料理を作りたいと思い、バスク州にあるアンドニ・ルイス・アドゥリス氏(Andoni Luis Aduriz)がシェフを務めるムガリッツの門を叩きました。

アドゥリス氏は、Netflixの「ファイナル・テーブル」(The Final Table)で審査員の1人を務めたことでも知られています。

アドゥリス氏は、カタルーニャ州にある「エル・ブジ」と地元バスクにあるマルティン・ベラサテギ氏(Martín Berasategui Olazabal,スペインで1番多くの星を獲得しているシェフ)の3つ星レストランで働いた後、自身のレストランをオープンしました。

バスクという土地に根差しながら、砂糖製のスプーンなど、遊び心にあふれたクリエイティブな料理を作るアドゥリス氏に刺激を受け、川島シェフは奈良県の食材、万葉集などの奈良県の文化や歴史を取り入れながら、オリジナルのモダン・スパニッシュを生み出しました。

「アコルドゥ」はバスク語で「記憶」を意味する言葉で、川島シェフ自身の記憶を頼りに作られた料理が、ゲスト自身の持っている記憶を引き出し、1人1人がオリジナルの料理体験をしてもらうことを願って料理が作られているそうです。

料理には、スペインワインにこだわらず、ソムリエがセレクトした、いろんな国のワインがペアリングされるので、それも料理を味わう楽しみの1つです。

なお、大阪には、「アコルドゥ」のコンセプト店である、2013年オープンの、ミシュランのビブグルマンに選ばれている「ドノスティア」(Donostia)というバルがあります。

バスク語で、美食の町として知られる「サン・セバスティアン」(San Sebastián)を意味するドノスティアでは、スペインワインをスペインのおつまみや奈良県産の食材で作られたメニューと一緒に楽しむことができますよ。

定番のサングリア(Sangría)からアンダルシア州のシェリー酒、ナバーラ州のスモモのリキュール・パチャラン(Pacharán)まで、スペイン産のアルコール類も充実しているので、ぜひ、いろいろ試してみてください。

<最後に>


日本人におなじみのスペイン料理と言えば、パエリアやガスパチョ(Gazpacho)、最近ではバスク・チーズケーキなどを思い浮かべる方が多いかもしれません。

スペインで修業したシェフのお店ならば、日本ではあまり知られていないスペイン料理を楽しむことができます。

また、日本人シェフならではの感性で作られた、スペイン料理と日本料理のフュージョン(Fusion)料理にも出会えるかもしれません。

新しい料理にトライする時は、初めて旅する場所のように、テンションが上がる気がします。

ぜひ、旅の高揚感にも似た非日常体験をしに、レストランを訪れてみてはいかがですか。

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