スペイン第2の都市・バルセロナ(Barcelona)のあるカタルーニャ州(Cataluña)には6つの世界遺産があり、そのうち5つが建築に関する世界遺産です。
バルセロナといえば、真っ先に思い浮かぶのはガウディ(Antoni Gaudí)作のサグラダ・ファミリア(Sagrada Família)だと思いますが、ガウディの建築以外にも、見逃せない建築がまだまだあります。
この文章では、カタルーニャ州で世界遺産に選ばれた建築を、歴史順に紹介していきます。
古代ローマ遺跡を見にタラゴナへ
2000年に世界遺産に選ばれた「タラゴナの遺跡群」(Conjunto arqueológico de Tarragona)は、14の遺跡から構成されています。
タラゴナは紀元前3世紀にローマ人に支配され、ヒスパニア・タラコネンシス(Hispania Tarraconensis)の首都になりました。当時はタラゴナでなく、タラコ(Tárraco)と呼ばれていたそうです。
タラゴナの遺跡群は、ローマ人が支配していた紀元前3世紀から1世紀ころに造られました。
主な遺跡としては、
タラゴナの北15kmにあるフランコリ川(Francolí)から、タラゴナまで水を運ぶために造られた、別名「悪魔の橋」(Puente del Diablo, プエンテ・デル・ディアブロ)と呼ばれる、長さ217m・高さ27mのラス・ファレラスの水道橋(Pont de les Ferreres)
アウグストゥス(Augustus)の時代に造られ、かつては猛獣と剣闘士たちが戦った、14,000人収容の円形闘技場(Amfiteatre romà)
1世紀に建てられ、一人乗り二輪馬車(戦車)のレース会場として使われた円形競技場(Circ Romà)
などがあります。
タラゴナ周辺には、D.Oタラゴナ(Tarragona)以外に、D.Oモンサン(Montsant)、D.Oコンカ・デ・バルベラ(Conca de Barberà)、 D.O ペネデス(Penedès)D.O.Ca プリオラート(Priorat)など、原産地呼称を受けたワイン産地が複数あります。
遺跡巡りとワイナリー巡りを組み合わせて旅したり、タラゴナのレストランでいろんな産地のワインを飲み比べたりするのも楽しいかもしれません。
ほのぼのとした味が魅力の
ロマネスク建築が残されたボイ渓谷
「ボイ渓谷のカタルーニャ風ロマネスク様式教会群」(Iglesias románicas catalanas de Vall del Boí)は2000年に世界遺産に登録されました。
ボイ渓谷(Vall de Boí)は、カタルーニャ州にある唯一の国立公園・アイグエストルテス・イ・エスタニ・デ・サン・マウリシ国立公園(Parque Nacional de Aigüestortes i Estany de Sant Maurici)の西側に位置します。
世界遺産の構成要素は、11~12世紀に建てられた、9つのロンバルディア・ロマネスク様式(Lombard Romanesque style)の教会です。
ロマネスク様式の建築は、厚い壁や太い柱、半円アーチなどが特徴ですが、ロンバルディア・ロマネスク様式では、それらにプラスして、イタリア・ロンバルディア地方の建築家が考案した、ブラインド・アーチ(Blind arch)のようなデザイン(ロンバルディア装飾)を壁面に施します。
では、これから代表的な教会2つをご紹介しましょう。
「スペインで一番美しいロマネスク教会」とも呼ばれるサン・クレメント教会(Sant Climent de Taüll)は、6階建ての四角い鐘楼が目印です。
ピカソにも影響を与えた「荘厳のキリスト」(Christ in Majesty)というフレスコ画の原画は、現在バルセロナのカタルーニャ美術館に飾られていますが、教会ではそのレプリカを代わりに見ることができます。
サン・クレメント教会と同じタウル村(Taüll)にあるサンタ・マリア教会(Santa Maria de Taüll)には、サン・クレメント教会と似た、5階建ての鐘楼が建っています。
「救世主の御公現」(Epifania,聖母マリアの膝に抱かれた幼子イエスが東方の三聖人からプレゼントを受け取る図)のフレスコ画はカタルーニャ美術館に移されていますが、後陣(Absis)でそのレプリカを見ることができますよ。
タウル村の2つの教会は、9つの教会の中で最も早い1931年に、スペインの国定記念物に選ばれました。
エリル・ラ・バル(Erill-la-Vall)にある、ボイ渓谷ロマネスク・センター(Centre del Romànic de la Vall de Boí)では、ロマネスク教会を巡るガイドツアーを開催していますので、利用してみるのも良いですね。
アラゴン王家にゆかりがあるポブレー修道院
1991年に世界遺産に選ばれた「ポブレー修道院」(Monasterio de Poblet)
12世紀半ばに、イスラム教徒からカタルーニャ地方を奪還できたことを神に感謝するため、ラモン・バランゲー4世(Ramon Berenguer IV el Sant IPA)が建設を計画しました。
実際に建てたのは、ベネディクト会(Benedicto)の一派であるシトー会(Sacer Ordo Cisterciensis)の修道士です。
ポブレー修道院は、スペイン国内では最大級の修道院です。
内部には、ジャウマ1世(Jaume I)以降のカタルーニャとアラゴン王家(Aragón)の霊廟や東西の長さ約85mの聖堂などがあり、ロマネスクからバロック(baroque)までの建築様式が入り混じっています。
19世紀には火災などの被害に遭い、この場所を離れざるを得なかったのですが、約100年の時を経て、1940年から修道院として再び使われるようになりました。
現在はシトー会の僧侶が約30人生活していて、ワインやパンなどを作り、自給自足しています。男性ならば宿泊することもできるので、非日常体験してみてはいかがですか。
モンタネールが設計した、乙女心をくすぐる
モデルニスモ建築
1997年に1997年に世界遺産に選ばれた「バルセロナのカタルーニャ音楽堂とサン・パウ病院」(Palau de la Música Catalana and Hospital de Sant Pau, Barcelona)は、カタルーニャ版アール・ヌーボー(Art nouveau)とも称されるモデルニスモ(Modernismo)を代表する建築です。
設計者は、ガウディのライバルで政治家でもあったルイス・ドメネク・イ・モンタネール(Lluís Domènech i Montaner)です。
実際に2つの建築を見たことがあるのですが、一見すると地味ながら、細部へのこだわりが感じられる外観と、カラフルでありつつ、上品さを漂わせている内装が、モンタネール作品の特徴だと思いました。
1905~1908年にかけて建てられたカタルーニャ音楽堂。
1910年代から直線的でシンプルなデザインが特徴のアール・デコ(Art Déco)が流行りだしたため、1930年ころには時代遅れと思われ、壊されたり、内装を変えられたりする危機に瀕したこともあったそうです。
今でも現役の音楽ホールとして使われていることを考えると、当時のままの姿で残って良かった!と思わずにいられません。
天井のステンドグラスからふりそそぐ柔らかい光の下で聴くクラシックコンサートは、耳だけでなく、記憶にも残りました。
音楽堂内には、ピンチョス(Pincho)をつまみにワインを飲めるカフェ・パラウ(Café Palau)もあるので、コンサートの前後にぜひ利用してみてください。
じっくり内部を見学したい方は、ガイドツアーに参加することもできます。脱出ゲーム型(Escape Room)の一味変わったツアーも開催されていますよ。
一方、1902~1930年まで28年間をかけ、息子ペラ(Pere)の代で完成したサン・パウ病院は、2009年までは現役の病院として使われていました。
サン・パウ病院の正式名称は、サンタ・クレウ・イ・サン・パウ病院(Hospital de la Santa Creu i Sant Pau)と言います。
ドーム屋根がどことなくイスラム風(ネオ・ムデハル様式, Neo-mudéjar)な旧病棟は、地下のトンネルでつながっています。
童話に出てきそうな建物群と中庭の緑は、かつての入院患者の心を明るくしたことでしょう。
観光スポット巡りに疲れた時は、サン・パウ病院に立ち寄ってみるのも良いかもしれません。きっと、リラックスできて、また歩き出そう、という気分になるはずです。
唯一無二の独自性を放つガウディ建築
「アントニ・ガウディの作品群」(Obras de Antoni Gaudí)は、1984年に世界遺産に登録され、2005年に構成要素が追加になりました。
1984年に登録されたのは、
グエル公園(Parque Güell)・グエル邸(Palacio Güell)・カサ・ミラ(Casa Mila)の3ヶ所で、2005年に登録された
カサ・ビセンス(Casa Vicens)・サグラダ・ファミリア生誕のファサードと地下聖堂(Gaudí’s work on the Nativity façade and Crypt of La Sagrada Familia)・カサ・バトリョ(Casa Batlló)・コロニア・グエルの地下聖堂(Crypt in Colonia Güell)
と合わせ、合計7ヶ所が世界遺産に登録されています。
ガウディもモンタネールと同じモデルニスモ時代の建築家ですが、晩年に向かうにつれて、様式の枠にはめることができない、ガウディらしさ全開の建築へと変化していきました。
サグラダ・ファミリアはもともとビリャール(Francisco Villar) が担当していて、ガウディは2代目の建築家だったのですが、今ではすっかりガウディの代名詞のようになっています。
また、ガウディは、グエル(Eusebi Güell i Bacigalupi)の依頼を受け、グエルと名のつく建築をカタルーニャ州に多く残しました。
ガウディに関しては、後ほど別の文章でご紹介する予定なので、興味のある方は、そちらもご覧になってみてください。
先史時代の暮らしぶりが垣間見える岩壁画
最後に、カタルーニャ州の世界遺産をもう1つご紹介します。
1998年に世界遺産に登録された「イベリア半島の地中海入り江のロック・アート」(Arte rupestre del arco mediterráneo de la Península Ibérica)は、アンダルシア(Andalusia)、アラゴン、カスティーリャ・ラ・マンチャ(Castilla-La Mancha)、カタルーニャ、ムルシア(Murcia,)、バレンシア(Valencia)の6州に点在していて、約750ヶ所が構成要素として、登録されています。
紀元前8000年~前2000年ころに描かれたのではないかといわれているロック・アート。
カタルーニャ州で最初に発見されたのは、レリダ(Lleida)から車で30分ほどのエル・コグル(El Cogul)にあるロカ・デルス・モロス(Roca dels Moros)という場所で、20世紀の初めのことでした。
他に、モンロイグ山脈(Serra del Mont-roig)にあるタバック洞窟(Cova del Tabac)なども世界遺産に登録されています。タバック洞窟へは、観光案内所エスパイ・オリジンズ(Espai Orígens)発のガイドツアーで行くことができますよ。
まとめ
以上、カタルーニャ州の世界遺産をご紹介してきました。カタルーニャ州には、バルセロナ以外にも見どころがいろいろあります。
また、有名なワイン産地もいっぱいです。カタルーニャ州を訪れる際には、ぜひ時間を多めにとって、観光とワインを楽しんでみてください。