ワインと料理のマリアージュとは、「ワインと料理の相性が良いこと」を意味しています。相性が良ければワインと料理はさらにおいしくなるものです。ただ、「マリアージュの心配をしなくても、いつでもどこでも誰にでも、そしてどんな料理にでもなじんでくれる、気軽に飲めるおいしいワインがあればいいのに」と思う人もたくさんいるはず。そんな度を越した願いを叶えてくれるのが、日本を遠く離れたヨーロッパに位置するスペインのワインです。その理由を2つお話ししましょう。
スペインワインはなぜどんな料理にも合うのか?
理由その1
1つ目の理由は日本とスペインの食生活です。両国の食生活には意外なほど似たところがあります。
スペインでは日本と同じく、日常の食生活でお米や魚貝類をふんだんに食べる習慣があります。シンプルな味付けや調理方法を取ることで、食材の自然な旨みを引きだそうとするところも似ています。このため、ヨーロッパの中で日本人の味覚や食の嗜好にもっとも合うのはスペインの料理だと言われています。実際、スペインに住んだり旅したりした日本人から「食材を含め食事が口に合うし胃も疲れない」という意見がよく聞かれます。
また、スペインでは至る所でバルを見かけます。バルとはワインやビールなどを飲みながら、タパス(小皿料理)やピンチョス(爪楊枝に刺した一口大の料理)などを楽しむ場所。この雰囲気、どこかなつかしい気がしませんか?そう、スペインのバルは日本の居酒屋のようなもので、一人での立ち飲みやグループでの飲み会など幅広い楽しみ方ができる大衆的な酒場です。バルも居酒屋も、お酒を飲みながら小皿に取り分けたいろんな種類のおつまみやおかずを少しずつ食べて楽しむところが共通しています。このように、スペイン人は日本人がとても親しみを感じる食生活を送っているのです。
理由その2
2つ目の理由として、スペインならではのワインづくりの特徴があげられます。
スペインにはなんと約150種類もの土着ぶどう品種が存在します。これらの土着品種から早熟で若飲みタイプのフルーティなワインがたくさん作られています。土着品種の代表格はテンプラニージョ(赤ワイン用黒ぶどう)です。この品種の名前はスペイン語で「早い」を意味する「temprano」に由来しており、その名の通り早熟で若飲みタイプのおいしいワインに仕上げることが可能です。その他にもボバル、モナストレル、トレパット(赤ワイン用黒ぶどう)、ベルデホ、マカベオ、チャレーロ、そしてゴデージョ(白ワイン用白ぶどう)など、あまり聞きなれない名前のぶどう品種がスペイン全土で栽培されています。どの土着品種もフルーティな若飲みタイプのワインに仕上げられすぐさま出荷される傾向にあります。手頃な価格で市場に出回り、消費者の手元に届くというスピーディなサイクルが出来上がっているのです。
(念のためにお伝えしますが、スペインではカベルネソーヴィニヨンなどの国際品種も栽培されていますし、長期熟成されたいわゆる高級ワインもたくさん作られています)
こうした若飲みタイプのワインには概して「強くたくましい」という長所があります。ワインとは一般的に、温度変化、光、振動、飲む際に使用するグラスなどの外的要因による影響を受けやすい繊細な飲み物です。しかし「強くたくましい」若飲みタイプのワインはこうした外的要因にそれほど左右されません。例えばムシムシする暑い夏の日に屋外でバーベキューをしていても、その反対に冷蔵庫から出したばかりでも、少々厚めのワイングラスやステムの無い普通のコップに注いでも、味や香りの印象にあまり変化を感じずおいしく飲み続けることができます。
柔軟に楽しめるのがスペインワイン
つまり若飲みタイプのスペインワインには、どんな状況にもなじむ柔軟なおいしさがあるのです。しかもスペイン人と日本人は普段からお米や魚貝類を使った料理をよく食べ、その味付けや調理方法も似たところがあります。ですから、「マリアージュの心配をしなくても、いつでもどこでも誰にでも、そしてどんな料理にでもなじんでくれる、気軽に飲めるおいしいワインがあればいいのに」という願いを叶えようと思えば、まさにスペインワインを選ぶのが良策だと言うことができるのです。
といいつつ、マリアージュでおいしさがさらにアップ!
スペインワインはどんな状況や料理にもなじんでくれるとお分かりいただけでしょうか。ただ、それでもやっぱり、ほんの少しマリアージュを意識するとワインと料理のおいしさがさらにアップするのは確かです。普段の食生活含め、さまざまなシーンで役立つシンプルな方法や組み合わせをご紹介しましょう。
マリアージュその1
色を合わせる
すぐに実践できる方法はワインと料理の色を合わせることです。色を合わせるだけでワインと料理がすんなりとなじむから不思議です。例えばたれのやきとりには赤ワイン、塩のやきとりには白ワイン、塩のレバーにはロゼがよく合います。ピザの場合、目立つ具の色がサラミ、ペパロニ、トマトソースなどの赤系の色であれば赤ワインを。ダブルチーズ、魚介類、ホワイトソースなどの白系の色なら白ワインを選びます。黒酢の酢豚なら赤ワイン、赤酢の酢豚ならロゼがいいでしょう。調味料も同じこと。きゅうりに味噌を付けるなら赤ワイン、きゅうりにマヨネーズを付けるなら白ワインという具合に試してみてください。きっと「おいしくなった!」と感じるはずです。
マリアージュその2
出身地を合わせる
ワインと食事の出身地を合わせるのもクラシックな方法です。スペインのワインですからスペインの料理に合わせるのが一番です。ご自宅で手軽に作れる一品として、スペインはカタルーニャ地方の郷土料理「パン・コン・トマテ」がおすすめです。材料はバケット、トマト、ニンニク、塩、そしてオリーブオイルです。焼いたバケットを適当な厚さに切り、断面にニンニクとトマトをこすりつけます。そこにオリーブオイルをたらして塩をかけるだけ。日本のトマトはやわらかくジューシーなので、みずみずしくフレッシュに仕上がります。シンプルですが病みつきになるおいしさです。白ワインにも赤ワインにもロゼワインにも合い、食卓でスペインらしい雰囲気も味わえる素敵な一品です。ぜひお試しください。
マリアージュその3
「家飲み」メニューと合わせる
昨年より続くコロナ禍がいつ完全に収束するのか予測しにくい中、「家飲み」も続いていくものと思われます。ご自宅でおかずやおつまみを作る他、スーパーやデパ地下のお惣菜やテイクアウトメニューを利用することも多いでしょう。そこで手軽かつお手頃に楽しめる簡単なマリアージュの例をご紹介します。赤、白、ロゼといった色でざっくりとワインを選んでもいいのですが、ぶどう品種から選んで料理と合わせるとより豊かな味わいを楽しめます。
赤ワイン(黒ぶどう)
・照り焼きチキン × テンプラニージョ
・ハンバーグ × ガルナチャ
・豚の角煮 × モナストレル
・もつ焼き × ボバル
白ワイン(白ぶどう)
・お刺身 × アルバリーニョ
・生春巻き × ベルデホ
・帆立貝バター焼き × マカベオ
ロゼワイン(黒ぶどう)
・ハムカツ × ボバル
・ホットドッグ × ガルナチャ
・酢豚 × フォルカジャ
迷ったときにはぜひスペインワインを
ここでご紹介したマリアージュを実践すればスペインワインはさらにおいしくなります。ただ、スペインワインの大きな魅力は、マリアージュをそれほど意識しなくてもどんな料理にもしっくりなじんでくれるところです。テーブルの上に魚、肉、米など素材の異なる様々な料理を思うままに並べても、スペインのワインならしっかりと受け止めてくれます。スペインのワインをよく飲む人々は「どんな料理に合わせてもおいしいよ」と口を揃えて言うほど。1人でもグループでもご自宅でもレストランでもその手軽なおいしさに変わりはありません。まさに「迷ったときにはスペインワイン」なのです。
飲む人すべてに素敵なひと時を与えてくれるスペインワインをぜひお楽しみください!