魅力あるスペイン各地の収穫祭を南から北へと巡る 魅力あるスペイン各地の収穫祭を南から北へと巡る

魅力あるスペイン各地の収穫祭を南から北へと巡る

秋に収穫を迎えるぶどう。ヨーロッパなどにはそれぞれぶどうの収穫を終えると収穫祭を行う産地が各地にあります。

スペインのぶどうの収穫は特殊な品種を除き、概ね9〜10月にかけておこなわれます。ぶどうの収穫前線は南のアンダルシア州からガリシアへと北上し、それに伴い収穫祭も各地で開催されていきます。

スペインの収穫祭では多くの場合、守護神や自然の恵みに感謝する宗教行事やダンスなど様々な催し物が行われると同時に、質の良いワインをたっぷりと堪能することができます。近年は多くの祭りが美食を楽しむイベントとしての特色を増し、地元住民だけでなく観光客やワイン愛好家も集まるようになってきました。収穫祭のメインイベント、試飲会は無料もしくは1〜2ユーロくらいでグラスを買ったら後はワイン飲み放題など、かなりの低価格であることも多くの人を惹きつける理由でしょう。

今回はスペイン各地で行われる様々な収穫祭を北から南へ、いくつか紹介していきます。

スペイン各地の収穫祭を紹介


アンダルシアの収穫祭

アンダルシア(Andalucía)州ではスペインで最古とされる収穫祭がいくつか行われています。

カディス( Cádiz)県のシェリー酒の産地として知られるヘレス・デ・ラ・フロンテーラ(Jerez de la Frontera)の収穫祭は16世紀から続く伝統があり、アンダルシア観光財に指定されています。ワインのもとになるモスト(most・ぶどうジュース)を足で絞るぶどう踏み、ワインの試飲、人形劇やコンサート、パレードや国際的な馬術学校による優雅な馬術ショーなどを楽しむことができます。

ヨーロッパで最も早くワイン用ぶどうが収穫されるコルドバ(Córdoba)県のモンティージャ・モリレス(Montilla Morilles)では9月の第1週に収穫祭が行われます。祭りではワインの試飲のほか、陶器工房によるワークショップ、ローマ時代のモザイク作りのワークショップなどが行われます。

マラガ(Málaga)県モジーナ(Mollina)では9月の最初の週末にワインと文学が融合した祭りが行われます。開会の宣言は著名な文学者によって行われるのが慣しで、D.O.マラガとD.O.シエラスデマラガのワインの試飲会のほか、詩のコンテストや馬術の競技会、ドミノ大会、ペタンク(Pétanque、フランス発祥の球技)の競技会、ドッグレース、デコレーションした自転車の品評会、伝統料理の出店などを楽しむことができます。中世に起源がある馬のリボンレースでは、ロープで吊るした輪に棒を通すという難しい技を競い合います。


カスティーリャ・イ・レオン州、サモラ県D.O.トロの収穫祭

テンプラリーニョ(Tempranillo)の赤ワインで知られるサモラ(Zamora)県トロ(Toro)の収穫祭は10月の第2週の週末に盛大に行われます。祭りの期間、トロの村は中世の時代に遡ったかのように様変わりします。祭りの最終日には中世の衣装を着た人々と収穫物を積んだ荷物を運ぶロバを交えて練り歩き、ロバが運んだ箱入りのワインが広場で大盤振る舞いされます。振舞われるのはワインだけではなく、ぶどうなどの収穫物やチョリソーやパンなど、様々なものがあります。

祭りでは他にもワインのテイスティング、演劇やコンサート、フラメンコのショーなども行われます。


バリャドリッド県の収穫祭

ロゼワインで知られるぶどう産地、バリャドリッド(Valladolid)県シガレス(Cigales)はカステイーリャ・イ・リオン(Castilla y León)州で最も古くから収穫祭を行ってきた地域です。収穫祭ではモスト絞りの他、ホタの上演や醸造家によるトーク、子供向けにワークショップなども行われます。

シガレスの収穫祭では最初にグラスを1ユーロで買えばあとはワイン飲み放題です。樽から自由にワインを注ぐことができます。驚きなのが収穫祭の間、広場の噴水はワインであること!これぞワイン産地の収穫祭!といった雰囲気です。

白ワインで有名なバリャドリッド県ルエダ(Rueda)は30年ほど前から収穫祭が行われています。祭りではルエダのロゴ入りのシュピゲラウ(Spigelau)製グラスが2ユーロで販売されているものの、グラスの持ち込みも自由なので基本的に全て無料でワインが飲み放題です。また、同じく2ユーロで陶器の皿を買うと山盛りのパエリアを振る舞ってもらえます。


マヨルカ島ビニサレムの収穫祭

スペイン スコルニワイン ワイン 収穫祭     (引用元:Ultimo Hora) 

地中海西部、バレアレス諸島(Islas Baleares)マヨルカ島(Mallorca)ビニサレム(Binissalem)では9月の守護聖人の祝日にぶどうの収穫が祝われます。紀元前2世紀にローマ人によってぶどう栽培とワイン造りが伝わって以来のワイン生産地であるビニサレム。ぶどうが無事収穫されたことを祝い、住人全員で食事をする『ソパール・ア・ラ・フレスカ(sopar a la fresca)』は古くから行われて来ました。

夕方5時になると通りにテーブルと椅子を出し、この地方の伝統的なヌードルやラム肉などの料理、ワインを並べます。このディナーには住人だけではなく、観光客も参加可能。例年住人の2.5倍の2万人が参加すると言われています。ディナーは日付が変わるまで続き、マヨルカ鉄道1号線はこの日のみ午前3時まで運行します。

ディナーの後は名物「ぶどう合戦」が行われます。摘果したぶどうを人々が互いにぶつけ合い、ぶどうまみれになって楽しみます。

他にもワインのテイスティングはもちろん観客にワインが振る舞われる人形劇やぶどう踏み競争、地域の歴史的な職業のコスプレをした人のパレードなど、様々なイベントが行われます。


ラ・リオハ州、州都ログローニョの収穫祭

スペイン スコルニワイン ワイン 収穫祭(引用元:larioja.com)

ログローニョ(Logroño)の収穫祭は毎年9月に行われます。スペインを代表する産地の収穫祭とあって、他の地域とは比べものにならないほど規模も大きく、14〜24日までの10日間の間様々な催し物が行われます。

中でも最も盛り上がりを見せるのは21日の『聖マテオ祭り(Fiesta de San Mateo)』です。12世紀に始まったこの祭りは、もともとは農作物全般の収穫を祝う感謝祭でした。19世紀、イザベル2世(Isabell II)の治世に政令が出され、正式な祭りとして認可されます。当初開催日は11日から23日までの間で毎年変動していましたが、その後収税官だった聖マテオの日である21日に定着していきました。祭りの歴史とともに聖マテオは商売の守護聖人として崇められるようになりました。

1956年からぶどうの収穫祭としての特色が強くなり、その後のワイン醸造を無事乗り越えられるように願いを込めて行われる意味合いも加わりました。

20日にログローニョ市役所のバルコニーからロケット花火が打ち上げられ、それをきっかけにお祭りが開始します。祭りの期間中には民族衣装を着た人々によるダンス、ペロタ(Pelota・バスクの競技)のトーナメント戦、エブロ(Ebro)川での花火、パレードや闘牛などさまざまな催し物が行われます。

祭りのハイライトは民族衣装の男性2人が踏んで絞ったモストを器に入れてリオハの聖母バルバネラ(Valbanera)に捧げる『エル・ピサード・デ・ラ・ウーバ( El pisado de la uva)』という儀式です。

また、祭り中はサングリア(Sangría)に似たスラカポテ(Zurracapote)という飲み物をポロン(Porron)というガラスの器でまわし飲みさせてくれるチャミソス(Chamizoz)の風習が行われます。

祭りは市役所前広場でワイン樽に火をつけて盛大に燃やす『ケマ・デ・ラ・クバ(Quema de la cuba)』でフィナーレを迎えます。

祭り中はピンチョ(Pincho)とワインのコンクール、パエリア(Paella)やサパディージャ・デ・ハモン(Zapatilla de Jamón 、生ハムのサンドイッチ)、チストラ(Chistorra、チョリソーの一種)やマッシュルームのアヒージョ(Ajillo)、きのこパテトーストやケソ・デ・ロンカル(Queso de Roncal、ナバラ州ロンカルで生産される羊乳のチーズ)、タコとリベイロ(Ribeiro D.O.)ワインなどの試食会、闘牛、ホタ(Jota、スペインの伝統音楽・舞踊)のクラス、子供向けサーカス、陶芸市、花火大会など、盛り沢山のイベントがあります。


アーロの『聖フェリセス・デ・ビリビオの巡礼祭』

スペイン スコルニワイン ワイン 収穫祭(引用元:wikipedia

ラ ・リオハ州、エブロ川流域の街、アーロ(Haro)では守護聖人サンペドロ(San Pedro)の日である6月29日に『聖フェリセス・デ・ビリビオの巡礼祭(Romería de San Felices de Bilibio)』が開かれ、毎年何千人もの人々が集まります。この祭りの特色はバタラ・デ・ヴィーノ(Battla de Vino、ワインの戦い)と祭りに参加した若者が闘牛役を演じる闘牛です。

午前7時、白いTシャツにスカーフを巻き、様々な容器に入った赤ワインを持った老若男女の参加者がアーロの街に集合。馬にまたがった市長が先導し、行列がアーロの街を練り歩き1世紀の隠者、聖ビリビオが住んでいたと言われるビリビオの断崖に向かいます。その後サン・フェリーチェス・デ・ビリビオ修道院でミサを行い、ミサが終わるとワインの戦いの始まり。参加者は全身ワイン色に染まりながら正午過ぎまでワインを掛け合います。

祭りの起源は遠く12世紀、アーロと隣接するミランダ・デ・エブロ(Miranda De Ebro)間の土地紛争にあると言われ、祭りの最中にワインを掛け合うようになったのは1710年だったようです。

ワインの戦いの後は、町の闘牛場で闘牛が行われますが、用意される牛は獰猛な雄牛ではなく雌牛で、牛が殺されることはありません。

その後収穫祭はワインの試飲と食事、品評会、そしてダンスパーティとなり延々と続きます。


まとめ

ぶどうの収穫を祝い、その喜びと感謝、食事や芸術、そしてワインをたくさんの人と分かち合う収穫祭。ワイン好きなら一度は経験してみたいイベントなのではないでしょうか。収穫前線に合わせスペインを南から北へ、収穫祭を巡る旅ができたら最高ですね。

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