カイザル髭やチュッパチャプス(Chupa chups)のロゴ、奇抜な行動などで知られたシュールレアリスト(Surrealist)・サルヴァドール・ダリ(Salvador Dalí)の作品がエチケット(Étiquette)にデザインされたスペインワインをご存じですか?
今回はそのワインを造っているボデガス・トレ・デル・ベゲールとダリとのつながり、「不死のブドウ」という名前がついたスペインワインについて、エチケットのもとになったダリの宝石について、ご紹介していきたいと思います。
環境や体にやさしいワイン造りを行うボデガス・トレ・デル・ベゲール
ボデガス・トレ・デル・ベゲール(Torre del Veguer)は、カタルーニャ州(Catalunya)シッチェス(Sitges)からほど近い、サン・ペレ・デ・リベス(Sant Pere de Ribes)にあるボデガです。
D.O.ペネデス(Penedès)の中では、最も海岸に近い場所にあります。
ランドマークになっている中世のお城のような建物は、14世紀に既に建てられていて、19世紀に大部分が建て替えられました。
15世紀には、ヘロニモス修道院(Monasterio Jerónimo de Montolivet)の僧侶が所有し、石でできた大桶(発酵タンク)でワインを造っていた時期もあります。
1878年に、現在の所有者であるフェレルヴィダル家(Ferrer-Vidal)に売却されました。
この地域では2000年前からワインが造られており、1930年ころ生産していたワインは、ボルドーに輸出されていたそうです。
ボデガス・トレ・デル・ベゲールは、フェレルヴィダル家の5代目・ホアキン・ガイ・デ・モンテージャ・フェレルヴィダル(Joaquín Gay de Montellá Ferrer-Vidal)氏の奥様であるマルタ・エスタニー・ブフィル氏(Marta Estany Bufill)が1995年にオープンしました。
フランスのシャトー(Château)をイメージして造られたボデガス・トレ・デル・ベゲール。
バルセロナ農業大学(l’Escola Superior d’Agricultura de Barcelona)でワイン醸造学の修士号を取得したマルタ氏は、最新の技術を導入し、カベルネ・ソーヴィニヨン(Cabernet Sauvignon)など国際的な品種も取り入れながら、高品質なスペインワインを生み出しました。
ボデガス・トレ・デル・ベゲールでは、マルタ氏の名にちなんだマルタ(MARTA)というエスプモーソ(Espumoso,スパークリングワイン)も販売しています。
2008年からは、ピレネー山脈(Los Pirineos)にあるボルヴィル・デ・サルダーニャ(Bolvir de Cerdanya)のブドウ園でも、赤ワイン用のピノ・ノワール(Pinot noir)、白ワイン用のシルヴァーナ(Silvana)とリースリング(Riesling)の交配品種を育てていますが、このブドウ園での栽培は、気候変動の影響を確かめる目的で開始されました。
現在は、カタルーニャブドウとワイン研究所(INCAVI)と共同で研究を進めていて、栽培面積を徐々に増やしているところです。
2016年からは、すべてが有機ブドウ園となったトレ・デル・ベゲール。SDGsにも配慮したワイン造りを行っているボデガです。
ちなみに、ボルヴィル・デ・サルダーニャから北東に車で約10分のプッチェルダー(Puigcerdà)には、エスタニー家(マルタ氏の実家)の元別荘で、現在はホテルになっているヴィジャ・パウリタ(Villa Paulita)があり、レストランでトレ・デル・ベゲールのワインを飲むことができます。
マス・ルーレ(Mas Roure)など、フェレルヴィダル家が所有するレストランでも、トレ・デル・ベゲールのワインを飲むことができるので、カタルーニャ州を訪れる機会があれば、立ち寄ってみてはいかがでしょうか。
現在はマルタ氏の息子さんで、ワイン醸造学、ブドウ栽培、ワインマーケティングを学んだホアキン氏(Joaquín)が6代目を継ぎ、ワインツーリズムに力を入れています。
様々なグルメ&ワインのティスティングとボデガやブドウ園の見学がセットになったガイドツアーの他、1896年に完成したネオゴシック様式(Gothic Revival)のチャペルでの結婚式やイベントも開催。
屋外のスイミングプール付近は、ネットフリックス(Netflix)のドラマ「H/アチェ」(Hache)のロケ地としても使われました。
ヘロニモス修道院時代に使われていた石製の大桶を改修し、発酵を行ったヘロニムス(JERONIMUS)というワインを販売するなど、トレ・デル・ベゲールは、今までの歴史を大切にしつつ、新しいことにも積極的にチャレンジしながら、ワイン造りを行っているボデガです。
ダリの作品をエチケットにしたワイン「不死のブドウ」とは?
(引用元:Wikipedia)
サルヴァドール・ダリと現ワイナリーオーナーの父親と叔父さん(父の兄)と1948年にダリの従妹経由で知り合い意気投合、その後30年以上も交友関係があったそうです。
基本的にはダリの家(冬場はフィゲラス、夏場はポルト・リガト)に遊びに行っていたそうです。
1958年の一時期、ダリは二人に誘われワイナリーで過ごしていました、その過ごした部屋が今、「ダリの部屋」としてワイナリー内にダリとの交友や作品を展示している特別室として来場者へ開放されています。
また、1999年、ホアキン氏の父(5代目のホアキン氏)は、日本のコレクターが所有していたダリデザインの宝石および絵画各37点を、フィゲラス(Figueras)にあるダリ劇場美術館(Teatre-Museu Dalí)のために買い取る手伝いをしました。
トレ・デル・ベゲールのワイン「ライモス・インモルタリタット」(RAÏMS IMMORTALITAT)は、カタルーニャ語で「不死のブドウ」を意味します。
ダリに敬意を表し、「ライモス・インモルタリタット」のエチケットには、ダリ劇場美術館所蔵の宝石アート「不死のブドウ」のために描かれた絵とダリのサインの複製がデザインされています。
では、これからワイン「ライモス・インモルタリタット」についてご紹介していきましょう。
赤ワイン「ライモス・インモルタリタット ティント」(RAÏMS IMMORTALITAT TINTO)は、手摘みで収穫した共に樹齢35年のカベルネ・ソーヴィニヨン85%とシラー15%を使ったワインです。
発酵温度は通常よりも低い19度で、15日間かけてじっくりと、マロラクティック発酵(MLF)は20日間かけて行います。
また、フレンチオークの樽で18ヶ月以上熟成させるため、まろやかな味わいのタンニンが生まれ、酸味と果実味のバランスが抜群の、余韻の長いワインに仕上がっています。
ブラックベリーのような濃厚な香りも特徴です。
煮込み料理やブルーチーズ、ハイカカオチョコレートなどに合わせて、召し上がってみてください。
白ワイン「ライモス・インモルタリタット ブランコ」(RAÏMS IMMORTALITAT BLANC)は、発酵温度17度で15日間発酵させた後、フレンチオーク樽での熟成を6ヶ月、瓶内熟成を12ヶ月行います。
ブドウは、カタルーニャ州原産のチャレロ・ブランコ(Xarel·lo)をメインに、チャレロ・ベルメル(Xarel·lo vermell)を少量使用。
チャレロは、カヴァ(Cava)に使われる品種として知られています。
チャレロ・ベルメルは、チャレロが突然変異してできた黒ブドウです。海抜400m未満の場所や海岸近くで育てるのに適した品種で、ハーブのような香りが特徴です。
2品種に共通しているのは、皮が厚いため、白ワイン用の品種でありながら、ポリフェノール(Polyphenol)たっぷりなことと、アルコール度数が高いワインが生まれることです。
熟した桃のようなフルーティーな香りに、樽熟成ならではのロースト香やバニラ香など、複雑な香りを楽しむことができるライモス・インモルタリタット ブランコ。
まろやかな味わいが口いっぱいに広がり、ハーブの余韻も長く続きます。
魚介料理全般に合う、1本あると重宝するスペインワインです。
ルネッサンスの芸術家のように多彩な才能を発揮したダリの宝石アート
ダリの宝石「不死のブドウ」は現在、ダリ劇場美術館に併設された宝石美術館(Dalí·Joyas)で展示されています。
ダリは、1949年から1970年にかけて、約40点の宝石アートを作り上げました。
「不死のブドウ」は、1970年に完成した作品です。
ブドウの幹、枝、蔓は18金、ブドウの葉は、重さ41.20カラット、362個のエメラルドで被われ、ブドウの実は約310カラットのカボッション(Cabochon,表面をドーム型・裏面を平らにしたカット方法)の紫水晶でできています。
ブドウの房の上部に、22金でできた小さな頭蓋骨がいくつも粒状についているのが、何ともシュールです。
ブドウの蔓がからまる、ブラジル・ミナスジェライス州(Minas Gerais)ディアマンティーナ(Diamantina)産の貴重な約30×45cmの石英平板には、ダリ直筆の後光が差した天使が描かれています。
ダリがこの宝石アートで表現したのは、「永遠の天使」に守られ、何百万年の眠りから覚めた水晶の結晶内の微生物が生命活動を再び開始する姿です。(水晶とは、結晶の形をした無色透明な石英のこと)
同じく、人類も神の恩寵を受けることで、この微生物のように、死に打ち勝つことができるのだということを、暗に例えたようです。
ダリはミイラのように防腐処理をされ、ダリ劇場美術館の地下に埋葬されました。おそらく、
微生物のように再び眠りから覚め、永遠の命を得ることを望んだからなのではないでしょうか。
他のダリの宝石アートとしては、
ダイヤモンドが敷き詰められた天使の羽がパタパタ動く「堕天使」(El ángel caído)
金で縁取りされた約1300カラットの琥珀色トパーズ製の扉が開くと、プラチナの後光が差したダリの自画像風救世主が現れる「汝に平和あれ」(Pax Vobiscum)
といった、からくり仕掛けの作品もあります。
ダリがデザインした宝石を実際に制作したのは、ニューヨークの宝石商アレマニー社(Alemany)で、加工や装置はチャールズ・ヴァイラント社(Charles Vaillant)が担当しました。
ダリは、宝石が材料の値段のみで評価されることを嫌い、ルネッサンス(Renaissance)の時代のように、デザイナーと職人の技術が宝石そのものの価値を超えて評価されることを望んでいました。
また、ダリはルネッサンス期の巨匠たち(レオナルド・ダ・ヴィンチ(Leonardo da Vinci)やミケランジェロ(Michelangelo)、ラファエロ(Raffaello Santi)など)が、オールマイティーに活躍していたことに影響を受け、絵画のみならず、版画・彫刻・建築・写真・映画・演劇・文学・金銀細工など、あらゆる媒体で彼の世界を表現しようとしました。
宝石作品に取り組んだのも、その一環でしょう。
そのため、ダリの宝石は、誰にもまねできない唯一無二のものとなったのかもしれません。
最後に
「ライモス・インモルタリタット」は、ボデガス・トレ・デル・ベゲールとダリという、お互いにこだわりを持った職人同士がタッグを組んだコラボワインです。
珍しいエチケットを収集している方にはもちろん、健康志向の方や環境問題に関心のある方にもおすすめです。
興味のある方は、ぜひ一度お試しください。