長い船旅の友として古くから親しまれ、世界で初めて地球を一周したワインとして知られているシェリー酒について、おすすめのシェリー酒とともに紹介します。
シェリー酒とは
シェリー酒(Sherry)はスペイン・アンダルシア(Andalucía)州カディス(Cádiz)県へレス・デ・ラ・フロンテーラ(Jerezde la Frontera、以下へレス)やその近隣地域で作られる酒精強化ワインです。特に、ヘレスとサンルーカル・デ・バラメーダ(Sanlúcar de Barrameda)、エル・プエルト・デ・サンタ・マリア(El Puerto de Santa María)の3ヶ所の町を結ぶ三角地帯内で熟成されたものだけがシェリーの名を使うことができます。スペイン語では「Vino de jerez(ヴィノ・デ・ヘレス)」と呼ばれます。
スペインでは通常、原産地呼称を持つワインについてはラベルに「DO」の表記がつきます。しかしシェリー酒についてはカヴァと同じく例外にあたり、「シェリー」との表記だけで格付けされていることが示されます。それだけ、世界的ブランドだということなのです。
へレスでは紀元前1100年過ぎごろにはすでにフェニキア人より伝わったぶどう 栽培とワイン醸造を行っていたとされます。古代ローマ時代にはこの地で生産されたワインは煮詰めて樹脂などを加え、腐敗しないようにして2,500kmほど離れたローマにまで輸送されていました。
へレスは中世、イスラム教徒の支配の時代にアラブ人から「シェリシュ(Sherish)」と呼ばれていました。12世紀、ヘレス産のワインがイギリスに渡った際、シェリシュが転じた「Sherry(シェリー)」がこのワインの名称として浸透したのです。
マゼラン(Ferdinand Magellan)が、その保存性の高さから航海の前に買い込んで船に乗ったため、シェリー酒は世界で初めて地球を一周したワインだと言われています。
シェリー酒は土壌や使用するぶどう品種、味わい、醸造方法などによって区分されています。
シェリー酒には、辛口~極甘口まであり、実は食前から食中、食後まで楽しめるバラエティに富んだワインだということをご存知でしょうか?
シェリー酒に使われるぶどうの品種
シェリー酒の原料は以下の3品種の白ぶどうのみが使われています。
・パロミノ種(Palomino)
ヘレスの総栽培面積の95%を占めるのがこのパロミノ種です。辛口のシェリーはパロミノ種だけを原料としています。香りや味に目立つ特徴はなく、生食用としても知られています。
・ペドロ・ヒメネス種(Pedro Ximénez)
海の近くで育てるのに適した品種で、極甘口のシェリー酒の原料になります。天日干しして干し葡萄状態にしたものをシェリー酒にします。濃いマホガニー色のワインになる。フルーツの艶やかな香りと甘さに負けないボリュームがあります。
・モスカテル種
シェリー用のモスカテル種はカディス県の大西洋沿岸の町、チピオナ(Chipiona)で栽培されています。レモンティーのような香りがあると言われ、生食したり、干してレーズンにすることもあります。
シェリー酒の造り方
ヘレスでは9月上旬にぶどうの収穫時期がやってきます。ぶどうは昔は手摘みで収穫されていましたが、現在ではほぼ機械で収穫され、除梗破砕機によって果梗を取り除き、プレス機で果汁を絞り出します。
絞り出した果汁をステンレスタンクなどで1ヶ月ほど発酵させるとアルコール度が11~12.5%ほどの辛口白ワイン(ベースの白ワインの完成)となります。その後1回目の分類が行われ、フィノやマンサニージャ(フレッシュな淡麗辛口タイプ)にするものは、酒精強化で15~15.5%にまでアルコール度数を上げます。するとフロール(flor、スペイン語で「花」)と呼ばれる産膜酵母ができてきます。通常のワインであれば産膜酵母ができた場合は失敗ですが、シェリー酒にとってフロールは空気に触れるのを防ぎ、独特のナッツのような味わいを与えるものとして欠かせない存在なのです。
アルコール度数を15%までに留め、フロールの下で熟成させるのがフレッシュな辛口の”フィノ(Fino)”、製造方法はフィノと同じでもサンルーカル・デ・バラメーダで熟成されたものだけは”マンサリーニャ(Manzanilla)”になります。
もう一方に分類されたベースワインは、アルコール度数17%以上に酒精強化することで、酵母は活性化出来なくなり、膜を張らなくなるため、空気に触れた状態になります。そのまま熟成をする=酸化熟成が行われ、こちらは”オロロソ”という香り高い辛口の濃い琥珀色のシェリー酒になります。
他にもフィノの熟成途中でアモンティジャードになりうるものは、更にアルコールを添加することでフロールが消え、途中から酸化熟成させるとフィノよりもややボディ感がありヘーゼルナッツのような香りで琥珀色のアモンティリヤード(Amontillado)などがあります。
シェリーの熟成はソレラ・システム(Solera System)と呼ばれる古い手法で古酒と新酒をブレンドしながら行われます。
極甘口のシェリー酒を造る場合は収穫されたぶどうを天日干しし、甘みを凝縮させます。さらに、発酵の途中で酒精強化されるので糖分がアルコールに変わらないまま甘味として残るのです。その後、辛口と同じくソレラ・システムで酸化熟成させます。
他にも、辛口のシェリー酒と濃縮精留果汁を合わせた「ペール・クリーム」、「ミディアム」、辛口のシェリーと、甘口のシェリーを合わせた「クリーム」があります。
ソレラ・システムとは
ソレラ・システム(スペイン語ではEl Sistema de Criadera y Solera)は古いシェリー酒を一番下にして、その上に少し新しい樽を重ねることを繰り替えし樽を3〜4段に積み重ね、一番床に近く古いシェリー酒からボトリングし、減った分をその上の樽から継ぎ足す、ということを繰り返す技法です。近年では継ぎ足しの作業は電動ポンプで行うのが主流ですが、伝統的な手作業での技法を行うボデガ(Bodega)もいまだ存在します。
おすすめのシェリー酒
ここからはエレデロス・デ・アルグエソ(Herederos de Argüeso)からおすすめのシェリー酒をいくつか紹介していきます。
エレデロス・デ・アルグエソは元々は1822年創立のサンルーカル・デ・バラメーダにある家族経営のボデガで、設立当初は古いボデガから古いシェリー酒や樽を買い集めてシェリー酒造りを始めました。1822年の創立当初から修理・修復を重ねながら代々引き継いできた500ℓのアメリカン・オーク樽を現在でも使用してシェリー酒を熟成させています。現在は、シェリー酒を多く扱うボデガス・ジュステ(Bodegas Yuste)のグループに属しています。
スペインのワイン専門誌『Vinos de españa(ビノ・デ・エスパーニャ)』においてアルグエソ社の全てのマンサニージャが賞を獲得するほど品質には定評のあるボデガです。
海辺の街の伝統のシェリー『サン・レオン マンサニージャ』
『サン・レオン マンサニージャ(San León Manzanilla)』は最低6年をかけて熟成されたマンサニージャです。ライトゴールドの色調で、海辺の街、サンルーカル・デ・バラメーダの気候条件の影響を受けほのかなミネラル感とソルティーさがあります。ドライで特に軽く、黄色い花のような華やかなアロマも感じられます。
ムール貝のワイン蒸し、白魚のフリット、ハードタイプ のチーズなどとの相性が良いシェリー酒です。
数多くの賞を受賞した実績のある『ラス・メダージャス マンサニージャ』
『ラス・メダージャス マンサニージャ(Las Medallas Manzanilla)』は古くからあるブランドのマンサニージャで、100年くらい前からさまざまな賞を受賞しているため「Las Medallas(メダル)」という名を冠しています。
5〜6年の熟成期間を経て造られ、淡い黄色の色調。ドライで繊細なアロマ、清涼感があり花のような香りが特徴です。口当たりが滑らかで、ほんのりとした苦みもあり、ほのかに塩と花の味わいも感じられます。
生ハム、チーズ、魚との相性が良く、特にサンルーカルの車海老と合わせると絶妙なのだとか。
バランスが良く、強い後味が特徴の『アモンティリャード アルグエソ』
『アモンティリヤード アルグエソ(Amontillado Argüeso)』は最低10年をかけて熟成されたアモンティリヤードです。
暗い金色で口当たり滑らか、複雑味のある豊かな味わいで非常にバランスが良く、強い後味が特徴です。
魚料理、魚介類のスープ、中華料理との相性の良いドライなシェリー酒です。
まったりとした味わいで樽の香りを感じる『1822 オロロソ アルグエソ』
『オロロソ アルグエソ(Oloroso Argüeso)』は最低7年をかけて熟成されたオロロソです。
マホガニー色で酸化熟成からくる特徴的な香り、ほのかにクルミを思わせるアロマが香り豊かです。グリセリンが多く含まれ、コクと力強さ、まったりとした味わい、余韻が長く樽の風味を感じさせるドライなシェリー酒です。
赤身肉料理やジビエとの相性が良く、ビーフシチューやゼラチン質の牛テール、ほほ肉もおすすめです。きのこ料理や熟成チーズともよく合います。
リラックスへと誘う高貴なアロマ『モスカテル アルグエソ』
『モスカテル アルグエソ(Moscatel Argüeso)』はモスカテル種のぶどう100%を使用した、最低5年の熟成を経て造られた甘口のシェリー種です。
輝きのあるアンバーカラーで、モスカテル種特有の芳醇で高貴なアロマ、ドライアプリコットやレーズンのような濃縮感のある甘い香りとハーブのような清涼感を併せ持っています。
ドライフルーツ、洋梨のタルト、ライチシャーベット、セミハードタイプのチーズなどと良く合います。
太陽をたっぷり浴びたぶどうの甘口シェリー酒『ペドロ・ヒメネス アルグエソ』
『ペドロ・ヒメネス アルグエソ(Pedro Ximénez Argüeso)』はペドロ・ヒメネス種のぶどう100%で造られた極甘口のシェリー種です。
濃い琥珀色で、ペドロ・ヒメネス種の持つ独特の香りを凝縮させるため、長く太陽光を浴びてから収穫されたぶどうの果汁は糖度を保つためあらかじめアルコールを添加してから発酵させています。アメリカン・オーク樽による5年の熟成によって特有の香りが生まれ、口の中でブーケが強烈に広がります。
食後酒として特におすすめで、デザート全般とよく合います。特にチョコレートベースのほんのり苦味のあるデザートやアイスクリーム、濃厚なブルーチーズとの相性が抜群です。
まとめ
日本ではまだそれほど普及していないシェリー酒ですがさまざまなタイプのものがあり、いくつか飲んでみるとそのバリエーションの豊かさ、奥深さに驚かれるはずです。繊細なフィノやマンサニージャは、冷蔵庫で冷やして1週間以内、オロロソやアモンティジャードは比較的長持ちするので少しずつ楽しむのもおすすめですよ。ぜひ今回紹介したものの中から選んでお試しいただければと思います。