国際的に高い評価を得ているワイン産地を有するカスティージャ・イ・レオン州のワインについて解説します。
カスティージャ・イ・レオン州の気候
カスティージャ・イ・レオン(Castilla y León)州はスペイン北西部にあるスペイン最大の自治州です。その面積は州で、国土の5分の1を占め、ヨーロッパでも最大級の広さを誇ります。
カスティージャ・イ・レオン州は、メセタ(Meseta)と呼ばれる広大な乾燥高原の上にあります。標高は高いところで1,000mを超え、ヨーロッパの中でもかなり高地にあります。冬は極寒で最低でマイナス20℃、夏は酷暑となり最高で42℃にまで達し、年間の寒暖差がかなり大きい大陸性気候となっています。
カスティージャ・イ・リオン州のワイン産地
カスティージャ・イ・レオン州ソリア県(Provincia de Soria)に位置する標高2,080mのウルビオン山(Picos de Urbión)を水源とし、西のポルトガル国境まで流れているドゥエロ川(El Duero)。ドゥエロ川流域地域は3層のローム層で構成された特殊な地層で、かつ石と砂利を含んでいます。このような土壌は木の根を固定し、水を浸透させ、栄養素や太陽エネルギーの吸収を促すため、ぶどうの栽培には非常に適しています。
ドゥエロ川周辺にはリベラ・デル・ドゥエロ(Ribera del Duero)などスペインのみならず、世界的に見ても主要なワイン産地が点在しています。
カスティージャ・イ・レオン州の主な産地を紹介します。
アリベス
2008年にDO認定を受けたアリベス(Arrives)はサモラ県(Provincia de Zamora)とサマランカ県(Provincia de Salamanca)の西部、ポルトガル国境付近に位置し、ドゥエロ川に沿って南北にぶどう畑が広がっています。
アリベスの畑は標高500〜700m前後の傾斜地に広がり、ぶどうは低木で栽培されます。大陸性気候ではありますが、大西洋からの影響を受け降雨量が多く、内陸部よりは比較的寒暖の差は緩やかです。
栽培されるぶどうの品種は黒ぶどうではサモラ県フェルモセリェ(Fermoselle)原産のフアン・ガルシア(Juan García)や同じく固有種で希少なブルニャル(Bruñal)、テンプラニーリョ(Tempranillo)や色が薄くライトなワインになるルフェテ(Rufete)などのほか、カベルネ・ソーヴィニヨン(Cabernet Sauvignon)やメルロー(Merlot)などのボルドー(Bordeaux)原産の品種も栽培されています。白ぶどうではギリシャ原産でローマ時代に広まったと言われるマルヴァジア(Malvasia)、スペイン最高峰の白ぶどう品種と言われるヴェルデホ(Verdejo)、パルディナ(Pardina)の名でも知られるアルビーリョ(Albillo)などです。
アリベスのワイン
フアン・ガルシアのみを使ったものやボルドースタイルの混醸などの赤ワインが主流。早飲みに適しているのはフアン・ガルシアのワインで、果実味のあるフレッシュな味わいが特徴。いっぽう、テンプラニーリョのワインは重厚な味わいになるものが多いようです。
アリーベスの白ワインにはマルヴァジアを6割以上含むよう規定があり、混醸にはヴェルデホやアルビーリョが使われます。
アルランサ
アルランサ(Arlanza)は州北部、ブルゴス県(Provincia de Burgos)とパレンシア県(Provincia de Palencia)にまたがるアルランサ川沿いに広がり、リベラ・デル・ドゥエロの隣にある産地で、2007年にDO指定されました。気候は大陸性気候で夏季と冬季に大きな寒暖差があります。
アルランサではティンタ・デル・パイス(Tinta del País )の別名で呼ばれるテンプラニーリョの生産量が多く、他の黒ぶどうではタンニンがソフトなガルナチャ(Garnacha)、スペインのピノ・ノワール(Pinot Noiir)と言われるメンシア(Mencia)など、白ぶどうではアルビーリョや高級品種のヴィウラ(Viura、別名マカベウ/Macabeo)などを栽培しています。
アルランサのワイン
代表的なワインはティンタ・デル・パイスのロゼもしくは赤ワインです。フレッシュな早飲みタイプが多く、ロゼワインと赤ワインはティンタ・デル・パイスを5割以上含む規定があるものの、単一品種によるものが大半です。
品質向上に熱心な産地で、厳密に収量調整を行い、DO認定以前よりも品質が落ちた地域は認定から除外されるケースもあるようです。
シガーレス
シガーレス(Cigares)は州のほぼ真ん中にある1991年にDO 認定された産地です。州の代表的都市バリャドリッド(Valladolid)の北にあり、南にはドゥエロ川支流のピスエルガ川( El Pisuerga)が流れています。周辺にはリベラ・デル・ドゥエロやルエダなど、多くの産地が密集しています。夏は40℃以上、冬は霜が降りるほど寒暖差がある大陸性気候です。
シガーレスではティンタ・フィノ(Tinta Fino)と呼ばれるテンプラニーリョやガルナチャ、混醸用のカベルネ・ソーヴィニヨンやメルローなどが栽培されています。
シガーレスのワイン
シガーレスでは2011年以降に白ワインの生産はなく、赤ワインだけを生産しています。骨格のしっかりした味わいのティンタ・フィノ単一品種の赤ワインが生産量の大半を占めています。ガルナチャやメルローなどとの混醸ワインも造られていて、ガルナチャとの混醸ワインはスパイス・カシスのような味わいがあります。
ティエラ・デ・レオン(Tierra de Leon)
レオン王国(Reino de León)の古都、レオンに位置する産地で、寒暖差の激しい大陸性気候ではあるものの、大西洋から近いため海洋性気候の影響も多少受けています。
ぶどう畑の標高は800m程度と高く、黒ぶどうは固有品種で希少品種のプリエト・ピクード(Prieto Picudo)、白ぶどうはこちらも希少品種であるアルバリン・ブランコ(Albarin Blanco)が栽培されているのがこの産地の特徴です。他には黒ぶどうはメンシア、白ぶどうはヴェルデホなどが栽培されています。
ティエラ・デ・レオンのワイン
プリエト・ピクードによるタンニンが強く個性的な香りの赤ワインが大半を占めますがヴェルデホやアルバリン・ブランコの白ワインも生産されています。
ティエラデル・ビーノ・デ・サモラ
ティエラデル・ビーノ・デ・サモラ(Tierra del vino de Zamora)はドゥエロ川沿岸、トロの東にある産地です。年間の日照時間の多い大陸性気候でぶどう畑の標高は750m。
白ぶどうはマルヴァジア、地中海東部流域起源の品種、モスカテル・デ・グラノ・メヌード(Moscatel de Grano Menudo)、ヴェルデホなど、黒ぶどうはテンプラニーリョやガルナチャなどが栽培されています。
ティエラデル・ビーノ・デ・サモラのワイン
赤ワイン、白ワインともにDO認定を受けているものの、テンプラニーリョによる赤ワインが生産量の大半を占めています。
トロ
トロ(Toro)はサモラ県の街、トロにある産地で、畑の標高は600〜700mで、隣の産地であるリベラ・デル・ドゥエロの800mに比べると低め。夏は30度を超え、冬や春に霜が降りる大陸性気候。年間降雨量も350mmほどとかなり少なめで、この厳しい環境が栽培されるぶどうのうま味を凝縮するのです。
栽培されるのはテンプラニーリョが大半を占め、ティンタ・デ・トロの別名で呼ばれるこの産地のテンプラニーリョは他の地域のものに比べると比較的皮が厚くタンニンが豊富となっています。
トロのワイン
ティンタ・デ・トロによる力強いワインが特徴で、フルボディタイプが人気です。しっかりとしたアタックがあり、濃い色合いでブラックベリーやカシスなどの果実を連想させるアロマを持っています。ヒレ肉のステーキやジビエなどとのマリアージュがおすすめ。
ビエルソ
ビエルソ(Bierzo)はレオン県北西、アストゥリアス州やガリシア州にほど近い産地で気候は降雨量が多く年間通して温暖な西岸海洋性気候に属しています。
ぶどう畑の標高は450m〜750mほどで、栽培されているぶどうはメンシアが大半を占めています。50年以上の古樹も珍しくないビエルソのメンシアは有名。他には白ぶどうの高級品種、ゴデーリョ(Godello)も少量ですが栽培されています。
ビエルソのワイン
ビエルソのワインの9割近くを占めるメンシアの赤ワインはチェリーやカシス、スミレなどの華やかなアロマが豊富。ブラックベリーやラズベリーのような果実味の中にも繊細さが備わっています。世界的に高評価を受けるワインもあり、その味わいはスペインのピノ・ノワール、と評されることもあります。また、その品質の高さの割にお求めやすい価格帯のワインがあることでも知られています。
リベラ・デル・デュエロ
州の中央、ドゥエロ川両岸に広がるリベラ・デル・ドゥエロ(Ribera del Duero)は世界的に高級ワインの産地として認められています。夏季は40℃に達し、冬季はマイナス18℃以下になる激しい寒暖差のある大陸性気候で、日中の寒暖差も大きく、うま味が凝縮された高品質のぶどうが育つ環境です。
畑は標高800mほどとかなりの高地に位置します。ティント・フィノ、もしくはティント・デル・パイスの別名で呼ばれるテンプラニーリョが栽培されています。
リベラ・デル・ドゥエロのワイン
代表的なワインはテンプラニーリョを単一もしくは75%以上を使って造られる赤、もしくはロゼワインです。厳しい環境で育ったゆえの濃い果実味、凝縮された味わいと濃厚なアロマ、長く続く余韻が特徴です。
ルエダ
ルエダ(Rueda)はトロとリベラ・デル・ドゥエロに挟まれたドゥエロ川沿いに広がる産地です。気候は大陸性気候。
畑は標高700〜800mと高地にあり、栽培されるぶどう品種はヴェルデホが大半を占めます。
ルエダのワイン
ルエダのワイン生産はヴェルデホの白ワインが大半。ルエダの白はスペインで最も売れている白ワインとなっています。DOを名乗るためにはヴェルデホを5割以上、ルエダ・ヴェルデホは85%以上使用するよう定められていますが、実際には生産の8割がヴェルデホ単一品種のワインで占められています。
ルエダのヴェルデホを用いたワインは爽やかな柑橘の香りにしっかりしたボディのキリッとした味わいが特徴。同じく白ワインの産地で有名なリアス・バイシャス(Rías Baixas)のワインに比べると酸が穏やかで濃厚なアロマがあります。
まとめ
カスティージャ・イ・レオン州のワインについて解説しました。
ぶどう栽培の歴史が古く、現在でも世界的に評価の高い産地を有するカスティージャ・イ・レオン州のワインは赤、白ともに高品質です。ぜひこの機会にその魅力を味わっていただければと思います。