スペインのクリスマス・地域色豊かなカトリック国らしい祭典 スペインのクリスマス・地域色豊かなカトリック国らしい祭典

スペインのクリスマス・地域色豊かなカトリック国らしい祭典

日本でクリスマスといえば、食事はクリスマスケーキとチキンが定番で、プレゼントを運んでくれるのはトナカイが引くそりに乗ったサンタクロースということになっていますが、スペインのクリスマスは日本とはかなり異なります。

スペインのクリスマス期間は10日以上あり、1月になってもクリスマスツリーが飾られている場所もあるんです。

特に子どもにとっては、プレゼントをもらえる機会がたくさんあってうれしいスペインのクリスマス。

この文章では、まず、クリスマスの歴史について軽く触れた後、スペインのクリスマスについて、筆者の実体験を交えながらご紹介していきたいと思います。

クリスマスの歴史・実はキリストの誕生日は不明だった!?

日本ではイエス・キリスト(Jesus Christus)が生まれた12月25日がクリスマスですが、聖書にはキリストが生まれた日に関する記載はないそうです。

そのため、3世紀までは春(3月28日、4月29日、5月20日、4月2日など)生まれ説、春に受胎して、冬(12月25日、1月6日など)に生まれたという説がありました。

エジプトのアレクサンドリア(Alexandria)では、キリスト教のバシレイデス派(Basileidēs)が2世紀に、1月6日(または10日)をキリストの洗礼日として祝っていました。

もともと、1月6日は死と復活の神・オシリス(Osiris)を祝う祭日だったのですが、キリストこそ真の神であると広めるため、あえて同じ日を洗礼日として祝うようになったそうです。

ちなみに、オシリスは、ギリシャでは酒の神であるディオニソス(Dionysos)と同一視されています。

バシレイデス派だけが祝っていた洗礼日は、やがて東方の正統教会全体で祝われるようになり、4世紀前半には、1月5日から6日にかけての夜にキリストの生誕を祝い、1月6日に洗礼を祝うように変化していきました。

1月6日は主顕節または公現祭(Epiphany,エピファニー)と呼ばれ、スペインでは国民の祝日になっています。

キリストの誕生日が12月25日になったのは、4世紀のこと。

古代ローマで、太陽神ミトラ(Mithra)を信仰するミトラ教が1年で最も夜の長い日(冬至)を「不滅の太陽の誕生日」として祝っていたのに対抗し、キリスト教はこの日をクリスマスとして祝うことに決めました。

現在冬至といえば、12月21日(または20日)ですが、グレゴリオ暦(Gregorian Calendar)に代わるまでは、12月25日が冬至だったようです。

西洋ではかつて日没から1日が始まると考えられていたため、12月25日は12月24日の夕方から始まりました。クリスマス・イブのイブは「夕方」(Evening)を意味しています。

スペイン版クリスマス・日本のお正月に少し似ている年中行事

スペイン語ではクリスマスのことをナビダ(Navidad)、カタルーニャ語ではナダル(Nadal)と呼びます。

クリスマス・イブはノーチェブエナ(Nochebuena、カタルーニャ語ではラ・ニット・デ・ナダル,La nit de nadal)と呼ばれ、この日は家族が集まって、食事します。

七面鳥(Pavo,パボ)は、スペイン人が16世紀初めに南米から連れてきたことがきっかけで、ヨーロッパでも食べられるようになりました。世界で最初にクリスマスに七面鳥を食べたのは、イギリスのヘンリー8世(Henry VIII)といわれています。

クリスマス・ディナーの詳細については、後ほどご紹介します。

ディナーの後、真夜中の12時には、教会で「ミサ・デ・ガリョ」(スペイン語ではMisa de Gallo,カタルーニャ語ではミサ・デル・ガル,Missa del Gall.「にわとりのミサ」という意味)が開かれます。

バルセロナ郊外にあるモンセラット修道院(Monasterio de Montserrat)のミサに参加すれば、修道院所属の少年合唱団によるコーラスも聴くことができますよ。

翌25日には家族や親戚が集まり、話に花を咲かせながらランチを取るのがスペインの定番クリスマスです。

子どもたちの一番のお楽しみはクリスマスにもらうプレゼントだと思いますが、スペインでは通常、12月25日でなく1月6日にプレゼントをもらいます。一部地域や家庭によっては、12月25日にもプレゼントをもらえるチャンスがあります。

プレゼントを配るのはもともとサンタさんではなかったのですが、30年前ころからサンタクロースもメジャーになってきました。

カタルーニャ州では、サンタのような帽子をかぶった丸太人形・通称「カガティオ」(Caga Tio,「排便する丸太」という意味)をクリスマス・イブまで毛布を掛けて大切に扱い、クリスマスになったらプレゼントを催促しながら棒で叩くと、お尻の部分からお菓子やプレゼントが登場する、という風習があります。 

カタルーニャ州のバルセロナに行った時は、ズボンを下ろし、排便するポーズを取っているカガネル(Caganer)という人形も、お店のショーウィンドーに並んでいました。カガネルは、翌年の五穀豊穣などを願って飾られる人形です。有名人をモデルにしたカガネルも売られているので、お土産に購入してみるのも良いかもしれません。

バスク州では、ベレー帽をかぶり、パイプをくわえたオレンツェロ(Olentzero)という農民姿のおじさんが、クリスマスの到来を教えてくれるそうです。

なお、スペインでは、クリスマスツリーよりもベレン(Belén)を飾るのが一般的です。ベレンは、キリスト生誕の場面を人形で再現したジオラマのようなものです。

カテドラル前(Fira de Santa Llúcia)やサグラダファミリア前の広場(Fira de Nadal de la Sagrada Família)ではクリスマス・マーケットを開催しているので、ベレンやカガティオ、カガネルなども購入することができますよ。

わたしが偶然発見したグランビア通り(Gran Via)のクリスマス・マーケット(バルセロナ大学(Universitat de Barcelona)からエスパーニャ広場(Plaza de España)の間)は1月6日まで開いているので、正月明けに訪れても、お土産探しができます。

マドリード(Madrid)ならば、マヨール広場(Plaza Mayor)でクリスマス・マーケットが開かれます。12月31日まで開いているので、年末に旅行される方は訪れることができますね。

クリスマスグッズを手に入れたら、すぐ隣のサンミゲル市場(Mercado de San Miguel)に向かいましょう。

100年以上の歴史を誇るマーケットには、ミシュラン2つ星レストランのソムリエがセレクトしたワインを試飲できる「El 19 De San Miguel」(エル・ディエスィ・ヌエベ・デ・サン・ミゲル)もありますよ。市場でありながら深夜まで開いているので、小腹がすいた時に立ち寄りたいスポットです。

フラメンコ音楽のようなビジャンシーコ(Villancico)というクリスマスソングを歌うこと、当選確率が非常に高い宝くじ(Loteria de Navidad,ロテリア・デ・ナビダ)の抽選発表で盛り上がること(発表は12月22日)なども、スペインのクリスマスならではの楽しみ方でしょう。

スペインのクリスマスグルメ・その地域ならではの特色を楽しめる

スコルニワイン クリスマス スペイン

さて、クリスマスの食事に話を戻しましょう。

先程ご紹介しましたが、七面鳥をヨーロッパに持ち込んだのはスペイン人です。

ですが、州ごとにクリスマスメニューは異なるため、必ずしもクリスマスにはチキン、といった決まりはありません。

例えば、カタルーニャ州のクリスマス・イブに欠かせないのは、牛・豚・鶏の肉とブティファラ(Botifarra)ソーセージ、野菜、豆などを煮込んだシチュー・エスクデーリャ(Escudella)です。

スコルニワイン  クリスマス

クリスマスには、前日残ったエスクデーリャのスープに肉団子やショートパスタ「ガレッツ」(Galets)を加えたソパ・デ・ガレッツ(Sopa de galets)やメインの肉料理をいただきます。肉料理は、家庭ごとに鶏や七面鳥、鴨、豚など様々なようです。

スコルニワイン クリスマス スペイン

カタルーニャ州では、クリスマス翌日の12月26日もサン・エステバンの日(La fiesta de San Esteban)という祝日なので、クリスマスに残ったスープや肉を使い、カネロンス(canelones,カタルーニャの「カネロニ」)を作って食べます。

スコルニワイン クリスマス スペイン

内陸部にあるラ・リオハ州では、魚料理である鯛のリオハ風(Besugo a la riojana)もぶどうの枝で焼いたラムチョップ (Chuletas al Sarmiento)などの肉料理と共に、クリスマスによく食べられます。

同じく内陸部にあるカスティーリャ・イ・レオン州では、セゴビア名物の子豚の丸焼き(Cochinillo Asado)や子羊のロースト(Lechazo asado)がメインディッシュです。

スコルニワイン クリスマス スペイン

海に面したガリシア州では鱈(たら)のカリフラワー添え(El bacalao con coliflor)やかぶの葉を添えた豚肩肉(El Lacón con Grelos)をクリスマスにいただきます。

もちろん、クリスマス料理には、地元産のワインが欠かせません。

デザートには、

ほろほろ崩れる触感が癖になるアンダルシア州のアーモンドクッキー・ポルボロン(Polvoron)

スコルニワイン クリスマス スペイン 

バレンシア州のシショナ(Xixona)には博物館がある、ヌガー(Nougat)菓子・トゥロン(Turrón)

スコルニワイン クリスマス スペイン

 トレド(Toledo)名物のアーモンドのお菓子・マサパン(Mazapan)

スコルニワイン クリスマス スペイン

など、クリスマスに欠かせないお菓子をいただきましょう。

甘口ワインやアニス(Anise)などを生地に練りこんだ、リング状のクッキー・ロスコス・デ・ヴィノ(Roscos de vino)は、アンダルシア州などでクリスマス時期に食べられるお菓子です。

スコルニワイン クリスマス スペイン

ちょっと話が飛びますが、スペインでは年越しに時計のチャイムに合わせて12粒のぶどうを食べることができると、幸せな1年が過ごせるといわれています。

マドリードのソル広場(Puerta del Sol)のカウントダウンイベントはテレビ中継もされるので、ホテルの部屋で温まりながら体験するのも良いかもしれません。

レジェス・マゴス・スペイン版子どもの日!?大人も童心に帰れるかも

スペインでは1月6日が主顕節または公現祭となっていて、国民の祝日となっていることは先ほどご紹介しましたが、この日は星に導かれた東方の三博士(レジェス・マゴス,Los Reyes Magos)が、お土産を携え、らくだに乗って、生まれたばかりのキリストに会いに来た日です。

その前日である1月5日の夕方には、東方の三博士たちがフロート車の上から飴をばらまくパレードが各地で開催されます。

わたしはまったくこういった知識がなくスペインに行ったので、サプライズのようにパレードを楽しめました。

その日はバルセロナからセビージャに移動する日だったのですが、セビージャに日が暮れてから到着したらバスが大渋滞にはまり、適当な場所で下車したら、もうすぐパレードが到着するところでした。

飴まきの際には、傘を裏返しにして飴をキャッチしたり、ごみ袋を広げてキャッチしたりする大胆な人々も見られて面白かったです。

わたしも運良く、飴をいくつかゲットすることができました。飴のパッケージはオリジナルで、その年の西暦も入っていたので、記念にぜひ持ち帰ってみてください。

1月6日の午前中に開催されたパレードでは、飴以外に、おもちゃのサッカーボールなども投げていました。おじさんがキャッチしたのですが、その後、近くにいた子どもに向けてボールを蹴り、プレゼントしていたのが印象的でした。

バルセロナでは残念ながら移動のためパレードを見ることができなかったのですが、セビージャのパレードは家々が立ち並ぶ庶民的な通りで開催されていたので、地元の人の生活が垣間見えて、逆に良かったかも、と思いました。

ちなみに、空港に向かう途中のバルセロナ・サンツ駅(Estación de Barcelona Sants)では、ヨセフ、マリア、キリスト、らくだ、東方の三博士などの扮装をしたリアルなベレン集団に出会い、思わず写真を撮影してしまいました。午後1時か2時ころに会ったので、もしかしたら、パレードの参加者だったのかもしれません。

バルセロナではカタルーニャ広場(Plaça de Catalunya)などが、マドリードではカステリャーナ通り(Paseo Castellana)などがパレードのルートになっているようです。

今後の状況にもよりますが、セビージャでは、今のところ2022年のパレードは開催されることが決定しています。このまま、何事もなく開催されることを願います。

レジェス・マゴスの際、パレードと共に子どもたちが楽しみにしているのは、東方の三博士からのプレゼントです。

子どもたちは毎年、東方の三博士にプレゼントをリクエストするために手紙を書きます。前年に良い行いをした子は1月6日の朝にリクエスト通りのプレゼントをもらえますが、悪い行いをした子は、炭型のお菓子が与えられます。

1月6日のもう1つのお楽しみは、王冠のようなリング状のドライフルーツ入り菓子パン・ロスコン・デ・レジェス(Roscón de Reyes,「王様たちのケーキ」という意味)です。

スコルニワイン クリスマス スペイン

ロスコン・デ・レジェスの中には、ソプレサ(Sorpresa)と呼ばれる陶器の人形またはプラスチック製のフィギュアが入っていて、それを当てた人は、王様のようにその日の主役になります。

ロスコン・デ・レジェスの中には豆が入っていることもあり、豆を当てた人はロスコン・デ・レジェスの代金を払わなければなりません。

ロスコン・デ・レジェスはサイズが大きいですが、パティスリーでも販売されているので、この時期にスペインを訪れる方は、購入してみるのも良いかもしれません。

12月24日ころから10日以上続いたスペインのクリスマスは、1月6日で終わりを迎えます。

最後に

日本に比べるとスペインの冬は寒いですが、お正月を過ぎれば旅行代金も安く済みますし、この時期を選んでスペインを訪れるのもありかもしれません。

日本とは一味違った、貴重なクリスマス体験ができますよ。

州ごとのクリスマスメニューとご当地ワインのマリアージュは、この時期ならではのもの。

コロナが落ち着いた暁には、ぜひグルメを楽しみに出かけてみてください。

関連記事