フラメンコ・スペインを象徴する総合芸術を目や耳で味わう フラメンコ・スペインを象徴する総合芸術を目や耳で味わう

フラメンコ・スペインを象徴する総合芸術を目や耳で味わう

情熱の国スペインの代名詞とされているフラメンコは、2010年にユネスコの無形文化遺産に選ばれました。

実は、日本はスペインに次いでフラメンコ人口が多いといわれるフラメンコ大国です。

なぜ、多くの日本人(特に女性)は、フラメンコに魅せられるのでしょうか。

フラメンコの歴史や技法などに触れながら、その秘密に迫ってみたいと思います。

どこか日本の演歌にも似ている?情感あふれるフラメンコの世界

まずは、フラメンコの歴史を軽くご紹介しましょう

フラメンコ(Flamenco)は、インドを起源とするロマ(Roma)がイベリア半島に到着した15世紀半ば以降に生まれました。ロマは、スペイン語でヒターノ(Gitano)とも呼ばれています。


ロマは、かつてイベリア半島を支配していたアラブ系民族(Moor,ムーア人)の影響を受けた、アンダルシア地方の民俗芸能をアレンジし、独自の芸術を生み出しました。

フラメンコが現在のような形になったのは、アンダルシア地方にロマが定住した18世紀末から19世紀後半といわれています。

仲間内の娯楽だったフラメンコが一躍脚光を浴びることになったのは、1842年にカフェ・カンタンテ(Café Cantante)という、フラメンコを見られる酒場が登場したことがきっかけです。

その後、映画やラジオなどの娯楽産業が発達したことや、政治状況により、フラメンコの人気は一時下火になっていましたが、1960年代ころ、現在も残るタブラオが次々に誕生するようになり、再び人気に火が付きました。

フラメンコは、アンダルシア州(Andalucía)を中心に、エストレマドゥーラ州(Extremadura)やムルシア州(Murcia)でも、伝統芸能として伝わっています。

さて、日本ではフラメンコと言えば踊りのイメージが強いですが、フラメンコはカンテ(Cante,歌)とバイレ(Baile,踊り)、トケ(Toque,ギター)が一体となった総合芸術です。

もともとはカンテから始まり、バイレ、最後にトケが加わるようになりました。

カンテは男性の比率が圧倒的に多く、男性はカンタオール(Cantaor)、女性はカンタオーラ(Cantaora)と呼ばれています。

逆にバイレは女性が多く、男性はバイラオール(Bailaor)、女性はバイラオーラ(Bailaora)と呼ばれています。

バイレの衣装ですが、女性はバタデコーラ(Bata de cola,ドレス)やファルダ(Falda,スカート)を身に着け、サパトス(Zapatos,女性用の靴)を履くのが一般的です。

他に、小道具としてアバニコ(Abanico,扇)やマントン(Mantón,大判のショール)、パリージョス(Palillos,カスタネット)などを使います。

男性はチャレコ(Chaleco)と呼ばれるショート丈のベストやスーツのような衣装など様々ですが、ショートブーツのようなボタス(Botas)を履くのが一般的です。 

トケはトカール(Tocar,弾く)からきた言葉で、演者はほぼ男性です。演者は、ギタリスタ(Guitarrista)と呼ばれています。

スペインでは、バイレだけでなくカンテやトケも人気があるため、各々単独で公演が行われることもあります。

日本でも、パコ・デ・ルシア(Paco de Lucía)がギターリサイタルを開いたことがありました。

話は変わりまして、一口にフラメンコと呼んでいますが、実はフラメンコには曲の形式が70種類以上あるといわれています。

代表的なものとしては、以下のようなものがあります。

極限状態に置かれた人の魂の叫びを表現した、カンテ・ホンド(Cante Jondo,奥深い歌)の代表とされるシギリージャ(Siguiriya) 

スペイン語で「孤独」を意味するSoledadが語源で、マリア・ソレア(Maria Solea)から名がついたとされる、人生の悲哀を歌ったソレア(Soleá)。

19世紀初め、カディス(Cádiz)のロマがアラゴン地方(Aragón)の「ホタ」(Jota)をアレンジして歌ったのが始まりとされる、スペイン語で「喜び」を意味するアレグリアス(Alegrias)

ちなみに、ソレアとアレグリアは、19世紀の始めにカディスとヘレス・デ・ラ・フロンテーラ(Jerez de la Frontera)で流行した踊り歌をもとに作られたとされ、リズムは同じです。ヘレス・デ・ラ・フロンテーラは、シェリー酒(Vinos de Jerez)の産地としても知られています。

同じくヘレス・デ・ラ・フロンテーラが発祥とされるブレリア(Bulería)は、19世紀後半に、ソレアの最後を速めて歌ったのが始まりとされています。

フラメンコの締めやフィン・デ・フィエスタ( fin de fiesta )として公演の最後や仲間内のパーティで踊られることが多いです。

セビージャ発祥のセビジャーナス(Sevillanas)は、ラ・マンチャ地方(La Mancha)の舞曲セギディージャス(Seguidillas)がアンダルシア地方に伝わり、より官能的に、女性らしく生まれ変わったもので、もともと正式名称はセギディージャス・セビジャーナス(Seguiryas Sevillanas,セビージャのセギディージャス)でした。

セビジャーナスは、パリージョスを使いながら、ペアで踊ることが多いです。

フェリア・デ・アブリル(Feria de Abril)の会場では、昼夜を問わず衣装を着ておしゃれをした人々が、レブヒート(シェリーのマンサニージャやフィノを7UPで割ったもの)を飲みながらセビジャーナスを踊りまくる人々を発見することができるでしょう。

さて、フラメンコで最も重視されるのは、フラメンコ独特のリズムであるコンパス(Compás)です。

歌い手(踊り手も)はパルマ(Palma,手拍子)で、踊り手はサパテアード(Zapateado, 足拍子)やパリージョスで、ギタリストはギターをかき鳴らしたり(ラスゲアード,Rasgueado)、ギターをつま弾いたりして(プンテアード,Punteado)、リズムをとります。


サパテアードには、主にゴルペ(Golpe,足裏で打つ)、プランタ(Planta,足裏の前半分で打つ)、タコン(Tacon,かかとで打つ)、プンタ(Punta,つま先で打つ)の4種類があります。

フラメンコを盛り上げるのに欠かせないのは、オーレ!(Ole!)などの掛け声(Jaleo,ハレオ)です。

オーレは、アラビア人が詩の朗読を聞くときに、唱えたワッラー(Walláh,「神にかけて」という意味)の名残といわれています。闘牛でもオレと言いますが、発音はOléで、微妙に違うようです。

演者は、興が乗ってくると、俳優が役に入り込むように、何かがのりうつったようなドウェンデ(Duende,「魔」や「妖怪」という意味)と呼ばれる境地に達することがあります。 

スペイン(特にアンダルシア州)では、技術の素晴らしさよりも、ドウェンデがあるかないかで、そのフラメンコが素晴らしかったかどうかを判断することが多いようです。

セビージャを訪れるならば立ち寄りたい!おすすめフラメンコスポット

スコルニワイン  フラメンコ

今までフラメンコについてご紹介してきましたが、やはり、フラメンコの魅力を知るには、実際に見てみるのが一番だと思います。

スペインには、タブラオ(Tablao)と呼ばれる、フラメンコを見ながら食事できる、昔ながらの酒場やレストランがあります。

平らな板(Tabla)を意味するタブラが語源のため、板張りの舞台がある場所が多く、それ以外に、洞窟のような形のタブラオもあります。

では、これから、フラメンコの中心地ともいえる、セビージャでおすすめのフラメンコスポットをご紹介していきましょう。

・ロス・ガジョス(Los Gallos)

かつてはユダヤ人の居住区だったサンタ・クルス街(Barrio de Santa Cruz)にあるタブラオです。

2021年9月現在営業休止中ですが、10月1日から営業を再開することが決まりました。

ロス・ガジョスは、1966年創業のセビージャ一の老舗タブラオです。

有名なフラメンコアーティストを多く輩出していて、一流アーティストも出演するショーを日替わりで上演しています。

わたしが訪れた日は、あいにく1月のお祭りの夜だったため、観客が10人ほどでした(収容人数は120人です)。

ちなみに、筆者は1人で見に行きましたが、1人でもまったく問題なかったです。

筆者は1度フラメンコを見たことがあったため、期待していたほどの感動は得られませんでしたが、このタブラオでカンタオール、トカオール、バイラオールという男性陣の力強さに惹きつけられました。

この時、華やかなイメージを持っていたフラメンコの概念が、良い意味で覆されたような気がします。

チケットには、1ドリンクが付いているので、ワインを飲みながらフラメンコを楽しむこともできますよ。

人気のタブラオなので予約は必須です。(筆者は宿泊ホテルに頼んだ予約が取れてなく、行く直前に予約の電話をしてもらいましたが、少なくとも当日の朝には予約したほうが良いようです)

席は早い者勝ちなので、前の方の座席を希望される方は、開場時間より早めに訪れてみてください。

・フラメンコ舞踊博物館(Museo del Baile Flamenco)

アントニオ・ガデス(Antonio Gades)舞踊団にパートナーとして所属していた、一流のフラメンコダンサー(バイラオール)・クリスティーナ・オヨス(Cristina Hoyos)がオープンした博物館です。

館内では、フラメンコの歴史に関する展示やコスチュームなどを間近に見学することもできますよ。

オヨス本人が振り付けたフラメンコショーは、開放感あふれるパティオと地下にある洞窟のような丸天井の空間で開催。

タブラオでは、演者の息遣いまで聞こえそうな近距離で、アカペラのカンテやバイレを楽しむことができます。

なお、フラメンコにはあまり興味がないけれど、セビージャを訪れたから、ちょっとお試しで見てみたいという方は、タブラオでなくフラメンコバーを訪れてみてはいかがですか。

トリアーナ地区にある、バイラオールとバイラオーラがオーナーの「フラメンコ・エセンシア」(Flamenco Esencia)は、タパスセットまたはワインなどのドリンクと共に、気軽にフラメンコを楽しめるお店です。


最近「T de Triana」という店名から名前を変えて、リニューアルオープンしたばかりの、できたてほやほやフラメンコバーでは、座席数約20席のアットホームな空間で、よそいきでなく普段着のフラメンコを楽しむことができますよ。

タブラオやフラメンコバーなどの常設スポット以外に、セビージャでは、毎年春にはフェリア・デ・アブリルが、また1年おきにビエナル・デ・フラメンコ(Bienal de Flamenco)も開催されています。

その時期に合わせて、セビージャを訪れれば、より一層、フラメンコを楽しむことができるはずです。

日本でフラメンコを見るならば、ぜひ訪れたいスポット

スコルニワイン  フラメンコ

現在、スペインには行きづらい状況にあるので、まずは国内でフラメンコを鑑賞できるスポットをご紹介します。興味が湧いたら、フラメンコを見に、スペインを訪れてみるのもありかもしれません。

エスペランサ

スコルニワイン  フラメンコ

高円寺で50年続くフラメンコが観れるお店「タブラオ」が2021年6月、元オーナーが他界され閉店しました。

フラメンコファンに愛されたお店に再び火を灯すべく、ご自身もフラメンコの踊り手である三枝雄輔氏がお店の存続のためにクラウドファンディングを立ち上げ、11月に新生「エスペランサ」としてリニューアルオープンしました。

このクラウドファンディングで、全国各地のフラメンコファン400名以上の方たちから総額600万円以上の支援金を集めたそうです。

新オーナーの三枝氏は12歳からスペインに住み、スペインでもフラメンコアーティストとしての活動も行っている為、今まで日本にはなかった本場スペインにあるようなお店を目指されています。

リニューアルオープンに際し、お店も改装されとても素敵なお店になりました。

日本にいながら、美味しいスペインワインやシェリーを片手にフラメンコを観れるお店です。

タパスは生ハム・チョリソ・サルチチョン・ケソ・ピコス・パン・オリーブオイルとシンプルですが、全てスペイン製の美味しいものが並んでいます。

スペインワインの他に、今後シェリーも充実予定。

12月中旬くらいからは木曜日から日曜日、フラメンコショーがない日もバルとして営業予定です。

・アルハムブラ

JR山手線西日暮里駅から目と鼻の先にある、1971年創業の老舗スペイン料理専門店です。

お食事しながらフラメンコライブを楽しめるお店で、現在はベリーダンスなどのライブも行われています。

バレンシア国際パエリア大会で2位に輝いたパエリアが、お店の一押しメニューです。

お一人様向けコースや単品メニューもあるので、1人でも安心ですよ。

緊急事態宣言中は提供されていませんが、フェリア・デ・アブリルには欠かせないレブヒート(Rebujito)も飲むことができるので、本場の味を楽しみに、訪れてみるのも良いですね。

ライブをご覧になりたい場合は、事前に予約されることをおすすめします。

・真夏の夜のフラメンコ

日比谷野外大音楽堂で毎年開催されている、小松原庸子スペイン舞踊団主催のフラメンコショーです。

2020年は中止になりましたが、2021年で第50回を迎えました。

筆者は15年ほど前に見に行ったのですが、特に印象に残っているのは、ショーの最後に、舞台の上だけでなく、通路などでも、おそらくフラメンコを習っている観客の方々がセビジャーナスを一斉に踊り出したことです。

最後列近くに座っていたため、いろんな人が笑顔で踊っているのが見えて、フラメンコって楽しいものなんだな、とフラメンコに興味を持つようになりました。

オープンエアの会場は、開放感満点。

ちょっと気だるい夏の夕暮れ時に、一服の清涼剤となるはずです。

終わりに

喜怒哀楽が詰め込まれたフラメンコは、人生の縮図のようにも感じられます。

日本人はなかなか感情を表に出したがりませんが、日頃抱えていても出せない激しい感情を演技として昇華することができるのは、フラメンコ人気の要因の一つではないでしょうか。

また、フラメンコ技術の奥深さは、職人気質の日本人のやる気にスイッチを入れるのかもしれません。

心の入り方やコンディションによって、同じ曲や歌で踊りを踊ったとしても毎回違う演技になるフラメンコ。

1度フラメンコショーを見た方は新たなフラメンコの魅力を発見しに、初めての方は生の舞台ならではの迫力を体験しに、タブラオや劇場を訪れてみるのも良いかもしれません。

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