マルケス・デ・グリニョン(Marqués de Griñón)は、スペインのカリスマワインメーカー・カルロス・ファルコ氏(Carlos Falcó)が率いてきた、家族経営のボデガです。
スペインの中では栽培されていなかったぶどう品種や導入されていなかった技術をいち早く導入するなど、先見の明を持ちながら、テロワールも大事にすることで、プレミアム感のある唯一無二のワインを生み出しています。
この文章では、マルケス・デ・グリニョンの特徴、マルケス・デ・グリニョンの立役者となったカルロス・ファルコ氏について、マルケス・デ・グリニョンのおすすめワインとオリーブオイルをご紹介していきたいと思います。
マルケス・デ・グリニョンとは?
マルケス・デ・グリニョンの正式名称は、パゴス・デ・ファミリア マルケス・デ・グリニョン(Pagos de Familia Marqués de Griñón)といいます。
マルケス・デ・グリニョンがあるのは、カスティーリャ・ラ・マンチャ州(Castilla-La Mancha)のトレド(Toledo)から西へ約50km向かったマルピカ・デ・タホ(Malpica de Tajo)から更に南西に約6.5kmの場所です。
マルケスはスペイン語で「侯爵」を指す言葉で、貴族であるグリニョン侯爵家は、13世紀からこの地域でワインとオリーブ造りを行っていました。
パゴ(Pago)は「特定の地域(のぶどう園やオリーブ畑)」を指す言葉で、フランスのクリュ(Cru)またはドメーヌ(Domaine)に該当します。
1989年からこの地域で生産を開始したワインは、D.O. ドミニオ・デ・バルデプーサ(Dominio de Valdepusa)として、2002年に、スペイン初のビノ・デ・パゴ(Vino de Pago,単一ぶどう畑限定高級ワイン)に選ばれました。
「優れたワインは畑から生まれる」という言葉がモットーのマルケス・デ・グリニョン。
自社や近隣の畑のぶどうを丁寧に育て、絶妙なタイミングでぶどうを手摘みし、収穫直後のぶどうをその品種にあった醸造方法で醸造することで、この地域ならではのテロワール(Terroir)を反映した、個性あふれるワインを生み出すことに成功しました。
また、マルケス・デ・グリニョンがワインを造る上で大切にしているのは、伝統を大切にしながらも、より良い製品を生み出すために、最新の設備も積極的に取り入れるということ。
そのため、他のボデガに先駆け、様々な試みを行いました。
例えば、1974年に、カスティーリャ・ラ・マンチャ州で初めて、フランス・ボルドー(Bordeaux)の代表品種であるカベルネ・ソーヴィニヨン(Cabernet Sauvignon)を植えたのは、マルケス・デ・グリニョンです。
1982年には、「現代ワイン醸造学の父」といわれるボルドー大学(Université de Bordeaux)エミール・ペイノー(Émile Peynaud)教授のコンサルタントを受け、畑を改革しました。
1994年には、ボルドーで添加用に使われていたプティ・ヴェルド(Petit Verdot)100%のワインを造ります。シラー(Syrah)をスペインで初めてワインに使ったのも、マルケス・デ・グリニョンです。
また、世界に先駆けてワイン畑に点滴灌漑(Drip Irrigation)を導入するなど、最新の灌漑システムも次々に導入。
1999年には、土壌の湿度を監視するためのデジタル電子センサーと、ブドウの木の水分ストレスを測定する樹状計を導入します。
1993年には、ぶどうの木をY字型にするリラ(Lyre)やぶどうの枝を上向きと下向きの両方に伸ばすスマートダイソン(Smart-Dyson)という仕立て方を採用しました。
2006年からは、ロマネ・コンティ(Romanée-conti)も担当するクロード・ブルギニョン氏(Claude Bourguignon)と妻リディア氏(Lydia)が、根が地中深くに伸びるように工夫
するなど、テロワールの個性をワインに反映させるためのサポートをしています。
マルケス・デ・グリニョンで、ワインの醸造を20年以上担当していたのは、フリオ・モウレジェ氏(Julio Mourelle)です。
ガリシア州(Galicia)出身で、カリフォルニア大学デーヴィス校(University of California, Davis)で修士号を取得した後、ナパ・バレー(Napa Valley)のスタッグス・リープ・ワインセラーズ(Stag’s Leap Wine Cellars,「パリスの審判」の赤ワイン部門で1位になったことで知られる)で見習いを、その後スターリング・ヴィンヤード(Sterling Vineyards)で醸造アシスタントをしていたところをスカウトされ、弱冠29歳だった1995年からテクニカル・ディレクターに就任しました。
ちなみに、モウレジェ氏は、ワインの味を正しく判断できるよう、歯磨き粉の味を20年以上変えていないそうで、タバコも吸わないそうです。
モウレジェ氏は、数ヶ月前にリベイラ・サクラ(Ribeira Sacra)のボデガFincaMíllara(フィンカ・ミリャラ)に移りました。
2002年から生産を開始したオリーブオイルは、イタリア人マルコ・ムゲッリ博士(Marco Mugelli)とファルコ氏が2人3脚で完成させた製品です。
博士は、初めのうち、トレドで最高級のオリーブオイルを作るのは難しいと二の足を踏んだそうですが、最新のデジタル技術を駆使することで、販売が可能になりました。
マルケス・デ・グリニョンは、2005年から国際市場で販売を開始。
2008年からは、カスティーリャ・イ・レオン州(Castiella y Llión)のD.O.ルエダ(Rueda)で赤ワインとロゼワインを販売し、ベルデホ(Verdejo)から造った白ワインも生産しています。
マルケス・デ・グリニョンの立役者カルロス・ファルコ氏とは?
セビージャ(Seville)出身のカルロス・ファルコ氏は、子どものころ、母方の祖父が作っていたオリーブオイルの素晴らしさに気づき、祖父のオリーブオイルをさらに立派なものにしようと考え、祖父の称号(マルケス・デ・グリニョン)と土地を受け継ぐことになりました。
ベルギーのルーヴァン大学(Université catholique de Louvain)で農業工学を学んだ後、
カリフォルニア大学デーヴィス校に通い、ぶどう栽培やワインの醸造技術を学んだことで、生産量は少なくても、お手頃価格ながら最高級のワインやオリーブオイルを作ろうと決意します。
エクストラ・バージン・オリーブオイルを作る際には、世界各国の商品をテイスティングし、特に気に入ったトスカーナ州(Toscana)のキャンティ・クラシコ(Chianti Classico)を参考にするため、現地のオーナーにオリーブオイル作りのコツを学び、実際に試した後、製品をより良くするため、オリーブオイルの専門家を招き、最高級のオイルを生み出しました。
カルロス・ファルコ氏を突き動かしていたのは、飽くなき好奇心と向上心かもしれません。
マルケス・デ・グリニョンの他、カスティーリャ・ラ・マンチャの美食アカデミーの会長、
スペイン美食アカデミーの副会長、スペインの有名企業が名を連ね、スペイン製品のブランドの価値を高める活動をするCírculo Fortunyという団体の会長など、様々な役職を歴任しました。
惜しくも2020年に新型コロナウィルスの感染症により亡くなられたのですが、生前、ファルコ氏は4人目の奥様に、オリーブオイル療法に基づいたスパを設立したいと語っていたそうです。
食に限らず健康にも目を向けるあたり、時代の先を見据える感性をお持ちなのでしょう。
長らくファルコ氏のパートナーとして働いていた、1人目の奥様との娘サンドラ氏(Xandra Falcó)は、Círculo Fortunyの会長を継ぎ、Real Fundación de Toledoの会長もつとめています。
マルケス・デ・グリニョンから離れた後の今年(2021年)、サンドラ氏は、リオハアラベサ(Rioja Alavesa)にあるエグレン(Eguren)兄弟のボデガ(Sierra Cantabria)と共同で、ロゼワインXFを30,000本限定で造りました。
現在、マルケス・デ・グリニョンの経営は、1人目の奥様との息子であるマノロ氏(Manolo)が行っています。
そして、マルケス・デ・グリニョンの称号は、テレビの料理番組などに出演している、2人目の奥様との娘タマラ氏(Tamara)が継ぎました。
ファルコ氏が亡くなられた後も、マルケス・デ・グリニョンのDNAは、今後も末永く引き継がれていくことでしょう。
主なマルケス・デ・グリニョンのワイン
マルケス・デ・グリニョンのぶどうは、キャノピーシステム(Canopy System)の導入により、葉と房に均一に陽があたるため、ポリフェノール(Polyphenol)とアントシアニン(Anthocyan)の含有量が豊富なのが特徴です。
葉と房に均一に陽があたるよう、剪定方法などは毎年変えられています。
土壌の粘土質(地表から平均40cmまで)はワインに力、複雑さ、強さを、白亜紀の細かい石灰石の層(地下2mまで)は、タンニンに優雅さ、ミネラル感、ビロードのような質感を与えます。
部分灌漑システムを利用することで、樹の乾燥状態になった部分から、「ストレス・ホルモン」であるアブシジン酸(Abscisic Acid)が合成され、若い樹でも高樹齢の樹なみに成熟させることができるのも特徴です。
熟成の際に使われるロワール地方(Loire)製のフレンチオークの樽は、通常の樽よりも長く、繊細な味わいを生み出すのに一役買っています。
では、これからマルケス・デ・グリニョンを代表するワインをご紹介します。
カベルネ・ソーヴィニヨン25周年を記念し、1997年から発売されたマルケス・デ・グリニョン エメリトゥス(Emeritvs)は、「値すること」を意味するラテン語を由来として名づけられました。
カベルネ・ソーヴィニヨン、プティ・ヴェルド、シラーをブレンドしたワインは、自然の力を使い、重力だけで果汁やワインを移動させるグラヴィティ・フロー(Gravity flow)・システムで造られています。
グラヴィティ・フローシステムではポンプを利用しないため、果汁やワインにストレスがかからず、より高品質なワインを造ることができます。
エレガントでありながら力強い口当たりと果物の香りの余韻が長く続くのが特徴のワインです。
2003年から発売されたスンマ・バリエタリス(Svmma Varietalis)は、シラーをメインに、少量のカベルネ・ソーヴィニヨンとプティ・ヴェルドを加えて造られます。
エメリトゥスと同じくグラヴィティ・フロー・システムで造られていますが、清澄化もろ過もされていないのが特徴です。
そのため、ヴィーガンの方も安心して飲むことができます。
野性味にあふれ、複雑な味や香りを楽しむことができるワインです。
主なマルケス・デ・グリニョンのオリーブオイル
マルケス・デ・グリニョンでは、オリーブの実を緑色から黒に色を変えるタイミングで摘み取り、収穫してから2時間以内に製油作業に入ります。
摘み取りは、オリーブの実を傷つけないよう、乳しぼりのように手でしごいて取ったり、櫛型の振動する機械を使って取ったりします。
オイルプレスには、酸化や抽出温度(約22度)の制御機能がついた最新式の機械が使われているため、高品質なエクストラ・バージン・オイルを提供することが可能です。
エクストラ・バージン・オイルには、1リットル当たり最大800mgのポリフェノールが含まれています。
では、マルケス・デ・グリニョンを代表するオリーブオイルをご紹介しましょう。
オレウム・アルティス(Oleum Artis(aceite de oliva vigen extra))は、オリーブオイル版ミシュランガイド「フロスオレイ」(Flos Olei)の2013年版で100点満点のうち98点を獲得し、スペインのオリーブオイルで初の最優秀賞に選ばれました。
また、Olive Japan2020では2019年度ビンテージが金賞、ニューヨーク国際オリーブオイルコンペティション(NYIOOC)2020でも4年連続金賞を受賞しています。
ラテン語で「オイルの芸術」を意味するオレウム・アルティスは、アルベキーナ種(Arbequina)とピクアル種(Picual)をブレンドしたエクストラ・バージン・オリーブオイルです。(コルニカブラ(Cornicabra)が含まれることもあり)
トマトや青リンゴのような青さを感じる香りと後に残るアーモンドのような甘みが特徴のアルベキーナ種とやや苦みのあるフルーティーなピクアル種とのバランスがとれていて、ピリッとした辛味からポリフェノール度の高さもうかがい知ることができます。
プロ仕様のオリーブオイルで、サラダや魚料理、スープ(温・冷)など、いろんな料理に合うので、使い勝手も良いのが特徴です。
最後に
文字数の関係でご紹介できませんでしたが、マルケス・デ・グリニョンには、魅力的な商品がまだまだあります。
今回の文章を読んで気になった方は、ぜひ弊社の商品紹介ページにアクセスしてみてください。