聞き手・文=冨永真奈美
ピカソが毎日飲んだであろう、味もビジュアルも完璧なワイン
天才芸術家パブロ・ピカソが若かりし頃の数年を過ごした場所がある。それはカタルーニャ州タラゴナ県テラ・アルタにあるオルタ・デ・サン・ホアンという美しい村だ。ピカソはこの地を愛し、この地もピカソを愛した。「パイサジェス・ピカシアンズ」は、オルタ・デ・サン・ホアンにあるボデガ「レス・ビニェス・デル・コンベント」が、ピカソへの愛と敬意を込めて造ったワインである。パイサジェス・ピカシアンズを見出し、輸入を決めた(株)スコルニ・ワイン営業統括本部長の齊藤邦久氏に話を聞いた。
――パイサジェス・ピカシアンズに出会った経緯を教えてください。
2023 年2 月にバルセロナワインウィーク(BWW)を訪れました。何万本ものワインが並ぶ会場内を歩いていた時、あるボトルに目が惹きつけられたのです。ピカソが描かれたラベルから強烈な印象を受けました。試飲を願い出たところ、なんと探していたオレンジワインだったのです。
――すごい偶然ですね。ワインを初めて飲んだ時、どのように思いましたか?
あまりの美味しさに驚きました。香りはフルーティーでジャスミンの花のようなニュアンスもあり、味わいはドライでスーッと馴染み良く広がり、初めてなのにどこか懐かしくもある奥深いワインで。レス・ビニェス・デル・コンベントのオーナー兼醸造家のエリエス・ヒル・ベル氏は、「ピカソに飲んで気に入ってもらおう」と考えながらワインを造ったそうですよ。
試飲したその瞬間に輸入を決意
――すごくユニークなラベルですね。カメラを持ったピカソの顔のアップに思わず見入ってしまいますよね。
バルセロナを拠点とするデザイナー、アルベルト・プッチダモン・ロカ氏がデザインしたラベルです。
ロカ氏はワインやスピリッツのラベルデザインの経験を豊富に持つデザイナーとのことです。バルセロナは芸術の街とも言われ、ピカソ美術館やガウディのサグラダ・ファミリアなどのアイコニックなスポットが数多くある。そんな街で生まれた、個性豊かなラベルですよね。
――すぐに取引の話が始まったのですか?
そうです。その場でビジネスの話に発展していきました。飲んだ瞬間から、このワインを日本中に知らせたい、広めたいという思いでいっぱいになり、私たちスコルニ・ワインに任せて欲しいと願い出たのです。ピカソとオルタ・デ・サン・ホアン村の関係にも心を動かされましたからね。「早く日本で多くの人たちに届けたい!」という興奮が収まらないままバルセロナを後にしたのです。
納得のいく仕上がりになるまでリリースを延期
――2021 ヴィンテージが初リリースで、しかも日本初上陸ですね。
2020 年ヴィンテージが初となる予定だったのですが、仕上がりに満足できずリリースを見送ったそうです。その後、さまざまに創意工夫を重ね、2021 年ヴィンテージを2023 年6 月20 日に無事リリースするに至りました。紆余曲折を経てリリースされたワインを、初めて日本に届け広めていく役目を果たしているのだからうれしい限りですよ。
――発表会も盛大に行われたそうですね。
パイサジェス・ピカシアンズの発表会は、2023 年5 月にバルセロナのピカソ美術展で行われました。発表会には残念ながら出席できなかったので手紙をお送りしました。日本で初のインポーターになる喜びや、ワインへの想いを真摯に書き綴りました。
ピカソが愛したオルタ・デ・サン・ホアンを体現するワイン
――パイサジェス・ピカシアンズは、レス・ビニェス・デル・コンベントが初めて造ったオレンジワインと聞きました。
ピカソはオルタ・デ・サン・ホアン村とそこで造られるワインが大好きでした。この村が位置するDOテラ・アルタは高品質なガルナチャの産地として有名で、レス・ビニェス・デル・コンベントの赤白ロゼはいずれも非常に評価が高い。ボデガは自分たちの醸造技術とガルナチャ・ブランカの潜在性を最大限に活かし、ピカソに気に入ってもらえるようなオレンジワインを造ったのです。
醸造家のヒル氏は、「画家を引退したらオルタ・デ・サン・ホアンに戻り、パイサジェス・ピカシアンズを毎日一杯飲んで暮らしたい。それが最高の余生だ」と、ピカソに言ってもらえるに違いないと微笑んでいましたよ。
――オレンジワインに対しては「渋味や苦味が強いのでは」といった先入観を抱きがちです。でもパイサジェス・ピカシアンズはまろやかで、すっと口の中で優しくなじんでくれるワインだと思います。
このワインを飲んだ人はみんな、「美味しいね!」とストレートに反応してくれます。ガルナッチャ・ブランカは通常、とても爽やかでフルーティーなワインとして親しまれています。ガルナッチャ・ブランカの特徴はそのままに、柑橘系、ハーブ、ティーフレーバーの心地よい香りや、ほのかなタンニンや心地よい粘性のテクスチャーなどが何層にも重なっていくような奥深い味わいが魅力のワインです。
醸造家のヒル氏によれば、こうした味わいは、マセレーションを通常よりも遅いスピードで行っていることなどから実現しているとのことです。また、SO2 は添加していません。ボデガの伝統的なワインのスタイルを大事にしながらも、新たなタイプのワインを求める若い世代にも楽しんでほしいと考え、モダンなスタイルを取り入れるよう試みたそうです。
――どんな料理にも合いそうですね。
日本料理含め、アジア風でも欧風でも様々な料理に合わせられる万能なワインですよ。サ-モンや赤貝の刺身、春巻き、リンゴやナッツを入れたサラダなど、普段の食卓にのぼりそうなメニューにも合わせやすい。ミモレットチーズやドライフルーツなどをおつまみにワインを楽しむのもおすすめです。
サクラアワードでダブルゴールドを受賞、他4部門受賞
――そうした素直で万能な美味しさが、日本のサクラアワードでも高い評価を受けました。
はい、ありがたいことに、2024 年第11 回サクラアワードで、パイサジェス・ピカシアンズはダブルゴールド賞を受賞しました。サクラアワードにて、これまでも多くの受賞歴がありますが、そこに新たな記録が加わったことをうれしく思います。
ヒル氏から、「日本は芸術と美味しいワインが愛されている国だから、日本の皆さんにパイサジェス・ピカシアンズを飲んで楽しんでいただけるだろうとは思っていました。しかし、ダブルゴールドを受賞することは想像もしていなかったので、大変光栄に思っています」との言葉が届いていますよ。
「手頃」ではなく「適正」な価格で、優れたスペインワインを提供
――パイサジェス・ピカシアンズとの出会いはまさに一期一会と言えます。今後もそのような素敵な出会いが起こるといいですね。
パイサジェス・ピカシアンズを初めて飲んだ時、本当に「美味しい!」と感動しました。バイヤーとして、美味しいワインを仕入れて帰ることが使命だったのですから、そのときの喜びは筆舌に尽くしがたいものがあります。
ワインを選ぶ際、オレンジワインは一番手の選択肢にはなかなかなりません。しかしパイサジェス・ピカシアンズは、赤、白、泡といったワインのタイプを超えて、「パイサジェス・ピカシアンズ」という固有名詞で消費者の方々に選んでもらえるワインになれる魅力があると信じています。
スペインワインは得てして「手頃で旨い、つまりコスパが良いのが取り柄」といった評価を下されがちです。だからこそインポーターとして、「手頃」ではなく「適正」な価格にて質の高い美味しいスペインワインを消費者の皆様に届けていきたいのです。その好例のひとつとなるのが、パイサジェス・ピカシアンズの輸入販売と言えます。これからも毎年、パイサジェス・ピカシアンズを日本の皆様にお届けしていく所存です。