外国のセレブの中に実践者が多い「ヴィーガン」。言葉は知っていても、意味をよく理解していない方も多いのではないでしょうか?
この文章では、ヴィーガンとヴィーガンワインについて、ヴィーガンワインの主な認証機関、ヴィーガンワインを作っているスペインの主なボデガをご紹介したいと思います。
ヴィーガンとは?
ヴィーガンは「完全菜食主義者」を意味する言葉です。1944年にヴィーガン協会設立者のドナルド・ワトソンが、ベジタリアン(Vegetarian)の最初3文字、最後2文字をとって、ヴィーガン(Vegan)と名付けました。
ヴィーガンは、自分の健康のためだけでなく、動物や地球環境の保護のために、動物由来の製品を食べたり、使ったりしないライフスタイルを実践しています。また、動物の権利を守るため、動物実験や動物を不当に働かせることにも反対しています。
ベジタリアンとヴィーガンの違いですが、ベジタリアンは肉や魚は食べませんが、はちみつを食べたり、場合によっては卵や乳製品を食べたりします。しかし、ヴィーガンは、これらすべてに加え、昆虫なども食べません。
ヴィーガンには2種類あり、食事に限ってヴィーガンを実践する人はダイエタリー・ヴィーガンと呼ばれ、食事に限らず革製品や絹・毛を使った洋服を着ないなど、生活全般で動物製品を避ける人はエシカル・ヴィーガンと呼ばれています。
ヴィーガンワインとは?
ワインはぶどうから作られるので、動物製品が使われていることをご存じない方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ワインを醸造する際には、ワインの濁りをなくすための作業が行われます。
タンクの底に溜まった澱(おり)を残して、上澄みのワインだけをすくい取る「澱引き」という作業を行った後、澱引きで完全に取り切れなかったタンパク質などを清澄剤でとって濁りをなくすケースが多いのですが、清澄剤の中に動物由来の製品が使われています。
清澄剤として使われているのは、
タンパク質と結合しやすい卵白やカゼイン(牛乳由来のタンパク質)
タンニンと結合して濁りや渋みをなくすゼラチン(動物のコラーゲンから抽出したタンパク質)
不純物を取り除くアイシングラス(魚の浮き袋由来のゼラチン)
シリカゲルと一緒に使われることが多いキチン(甲殻類由来の成分)
酸化防止効果があるベントナイト
など。
この内、ベントナイトは鉱物由来なので、ヴィーガンワインとして認められますが、他の清澄剤を使った場合はヴィーガンワインとして認められません。
ワイナリーの中には、動物由来の清澄剤を使わずに植物性たんぱく質由来の清澄剤を使ったり、珪藻土やろ紙でろ過したり、じっくりと数年かけて自然沈降を待ったりするところもあります。
他の動物由来の製品としては、ワインの着色料として使われることもある、コチニール(カイガラムシ科エンジムシから抽出される色素。カーマインと呼ばれることも)があります。日本では「天然紅4号」と表記されることもあるコチニールも、ヴィーガンワインには含まれていません。
スペインでは使用が禁止されていますが、ぶどうの甘味を増すため、砂糖を使うワイナリーもあります。白砂糖は、牛骨炭などを使って脱色するため、ヴィーガンワインの材料として認められていません。
ヴィーガンワインは、オーガニックワインを兼ねた製品が多いです。オーガニックワインでも、ビオディナミ製法で作られたワインは、馬が畑を耕したり、牛糞を肥料にしたりするため、厳密には(エシカル・)ヴィーガンではないのですが、ヴィーガンワインとして取り扱われるケースもあります。
主なヴィーガンワインの認証制度
2017年現在、EU内ではヴィーガン製品のラベルに関する法律は制定されていなくて、公的な認証機関もありません。そのため、民間の機関が独自にヴィーガンワインの認証マークを発行しています。例外として、イギリスでは、2006年にFSA(食品基準庁)が、ベジタリアンやヴィーガンの定義を公表しました。
認証ラベルは世界中で使うことができますが、ラベルの知名度は国によって異なるので、販売する国で良く知られているラベルの認証を受ける必要があります。
V-LABEL
1996年にSwissveg(スイスベグ。旧スイス菜食主義協会)が認証を開始した、ヴィーガンとベジタリアンの製品とサービスを対象としたラベルで、黄色の円の中央に緑のVがデザインされているのが特徴です。2008年からは、スイスのV-LabelGmbH(V-Label有限会社)が商標を管理しています。V-LABELは、スペインのベジタリアン連合など、ヨーロッパの20か国以上の協会や南米の協会とパートナー関係を結んでいます。
ヴィーガン協会(The Vegan Society)
イギリスのヴィーガン協会が1990年に制定したヴィーガン認証は、ひまわりの花をデザインしたラベルが目印です。認証されている製品は、49,000以上にものぼります。
認証製品はすべて、動物由来の成分を含まず、動物実験も行っていません。ヴィーガン協会では、昆虫やみじんこなどの小さな生き物も、「動物」として扱っています。
ベジタリアン協会(The Vegetarian Society of the United Kingdom Limited)
イギリスに本部があるベジタリアン協会は、1847年に誕生した、世界最古のベジタリアンのための組織です。ヴィーガンの名付け親であるドナルド・ワトソンも会員でした。
ベジタリアン協会では、ベジタリアン認証とヴィーガン認証の2種類のマークを発行しています。
ベジタリアン協会のヴィーガン認証の条件は
・動物由来成分を含まないこと
・製造中に交差汚染がないこと(ヴィーガン製品専用のタンクを使うなど)
・GMOフリー(遺伝子組み換え作物を使っていないこと)
・動物実験を実施したり、外部に委託したりしていないこと
となっています。
VEGANOK
イタリアには認証機関が複数ありますが、最もポピュラーなのがVEGANOKです。VEGANOKのスタッフはすべてヴィーガンで、1,000社以上の認証企業があります。
BeVeg
世界で唯一、法律事務所が発行している、ヴィーガン認証のマークです。アメリカの機関なので、アメリカと同じイギリスやカナダなどのアングロ・サクソン諸国で良く知られています。今まで6大陸で数千人が認証を受けました。
ワインを含むアルコール製品には、グラスがデザインされた、アルコール認証専用のマーク(BevVeg)が使われます。マークの色は、商品のパッケージの色に合わせて、自由に変えることができます。
スペインにあるヴィーガンワインのボデガ
アグスティ・トレジョ・マタ(Agustí Torelló Mata)
ワイン醸造学者だったアグスティ・トレジョ・マタさんが1950年に設立したボデガです。ぶどうは有機栽培で育て、手摘みで収穫しています。作られているのは最低2年熟成させるレセルバと3年~10年熟成したグランレセルバのみで、カヴァをメインに、ロゼも製造しています。
アグスティ・トレジョ・マタでは、動物由来の清澄剤を使わず、デキャンテーションで澱を取り除いています。
樹齢60年以上の木から採れたぶどうのみを使って作られたカヴァを、手作りのアンフォラボトルに詰めたクリプタ(KRIPTA)は、パーカーポイント94点など高評価を得ています(アグスティ・トレジョ・マタはヴィーガンワインをメインに作っていますが、クリプタは残念ながらヴィーガンワインではありません)。
ボデガ・シエラ・ノルテ(Bodega Sierra Norte)
ぶどう農家の3代目兄弟が、1995年に設立したボデガです。バレンシア州の西側にあるウティエル・レケーナ(Utiel-Requena)にあります。2011年には、カステーリャ・イ・ラマンチャ州の南東にあるアルバセテ(Albacete)のラ・ローダ(LaRoda)のボデガも買収しました。ぶどう畑は、すべてオーガニック認証を受けています。
ウティエル・レケーナでは、この地以外ではほとんど栽培されていない赤ワイン用の黒ぶどう・ボバル(Bobal)が、ぶどうの栽培面積の80%を占めています。
パシオン・デ・ボバルは、樹齢60年以上のボバルの木から採れたぶどうを100%使ったワインで、2020年のバレンシア州有機ワインコンテストで金メダルを獲得するなど、数々の賞を受賞しています。ヴィーガン認証も受けたワインです。
ボデガス・ビ・レイ(Bodegas Vi Rei)
バレアレス諸島にあるマヨルカ島の東側に2014年にオープンしたボデガ。D.Oプラ・イ・リェバン(Pla i Llevant)は2000年にD.Oに昇格したばかりなので、マント・ネグロ(Manto Negro)などの自生する品種だけでなく、積極的に外国の品種を取り入れて、新しいワイン作りを行うボデガが多いです。
ボデガス・ビ・レイでは、ぶどうの木の剪定から収穫までを、ほとんど手作業で行っています。ちょうどよい具合に熟したタイミングでぶどうを摘み取り、低温に設定されたステンレスタンクで発酵を行います。
ボデガス・ビ・レイは、スペインでは有名なワイン醸造コンサルタント「イグナシオ・デ・ミゲル」氏に指導を仰ぎながら、高品質なワインを作っています。
モルスカ(スペイン語で「軟体動物」という意味)のシリーズは、名前のイメージとうらはらに、思わずジャケ買いしたくなるスタイリッシュなエチケットが特徴。もちろんヴィーガン認証も取得済です。
まとめ
ヴィーガンワインは、動物性食品を取りたくない方だけでなく、卵や牛乳、甲殻類などを使用していないので、食品アレルギーがある方にもおすすめのワインです。
今回紹介したボデガ以外にも、ヴィーガンワインを作っているボデガやワイナリーはあります。
ヴィーガンワインに興味を持たれた方は、英語のサイトですが、ヴィーガンワインの検索に便利なバー・ニヴォア・ドットコム(https://www.barnivore.com/)も参考にしてみてください。