スペインワインと言えばリオハやリベラ・デル・デゥエロなどの赤ワインのイメージが強いかもしれません。しかし近年、D.O.リアス・バイシャスは高級白ワインの産地としてその名を高めつつあります。
今回はD.O.リアス・バイシャスのワインについて、産地としての歴史や気候なども併せて解説します。
リアス・バイシャス概要
リアス・バイシャス(D.O. Rías Baixas)はスペイン北西部、ガリシア州(Galicia)最大のワイン生産地で1988年にD.O.認定されました。
リアス・バイシャスは全部で5つのサブゾーンに分かれています。海岸沿いのゾーンはソウトマヨール(Soutomaior)、バル・ド・サルネス(Val do Salnés)、リベイラ・ド・ウジャ(Ribeira do Ulla)の3つ。内陸部のゾーンはオ・ロサル(O Rosal)とコンダード・ド・テア(Condado do Tea)の2つです。
リアス・バイシャスには大規模なブドウ畑がほとんどありません。5つのサブゾーンに小さな畑が点在しているのです。ガリシア地方にはかつて小農制度があり、自分の子ども全てに均等に土地などの財産を分配する習慣がありました。そのため、1人あたりが所有できる畑が非常に小さく、小規模な畑があちこちにできる、という結果を生んだとされています。
リアス・バイシャスではアルバリーニョ種(Albariño)による白ワインを中心に生産していて、総生産量の約95%が白ワインとなっています。
リアス・バイシャスのワイン醸造の歴史
リアス・バイシャスの主要品種、アルバリーニョがこの地域に伝来した起源に関し、主に2つの説があります。
1つは12世紀のこと。フランスの修道士によってポンテペドラ県(Provincia de
Pontevedra)のバル・ド・サルネスにある、アルメンテイラ修道会にもたらされたという説です。その後中世以降、この地を流れるウミア川(Río Umia)の土手にアルバリーニョが栽培され、ワインの醸造が始まったとされています。
もう1つの説は5世紀。ゲルマン系民族がアルバリーニョを持って中央ヨーロッパからこのエリアに移動し、定住したことが伝来の起源とするものです。
どちらの説が正しいかはさておき、12世紀にやってきた修道士たちがこのエリアの人々にブドウ栽培や醸造技術を伝えたことは間違いない、とされています。修道士たちによって造られる高品質の白ワインはその後、18世紀の永代所有財産解放令まで修道院によって守られます。この法令によって修道院は解散を余儀なくされたのです。
修道院の手から離れたワイン造りはその後貴族たちの荘園で行われるようになり、一般人は狭い土地での自給自足が精一杯、という時代が長く続きました。それと同時にアルバリーニョはエリア全域に広まり、リアス・バイシャスのワインは確立されていきました。
1980年代になって協同組合が発足し、リアス・バイシャスのワイン生産は一挙に革新されました。その後、リアス・バイシャスはスペインで最高品質のワイン産地として、高く評価されているのです。
リアス・バイシャスの気候・土壌
スペイン北西部に位置するリアス・バイシャスは日本に似た気候だと言われています。
降水量が多く、年間降水量は1600〜1800mm程度で日本と同じくらいです。特に、冬には海岸線からスコールが降り、春にかけて雨が多くなります。この雨の多さは内陸部や渓谷地域を深い緑で覆います。
年間を通じ、寒暖差の少ない温暖な大西洋気候です。平均気温は13℃ほどで、こちらも山梨県などとほぼ同じです。夏は晴れた日が比較的多く、晴れると非常に強い日差しが降り注ぎます。
また、海沿いのリアス海岸にあたる地域は霧が多く、夏でも30℃は超えず、冬は氷点下まで気温が下がりません。
リアス・バイシャスの畑の大部分が標高100〜300mと比較的低地にあり、土壌はグラニテ(Granite/花崗岩)質が中心となっています。花崗岩は主に石英、カリ長石、斜長石、黒雲母から構成されます。砕けやすい性質があり、砂質にもなれば粘土質にもなります。花崗岩質で造られたブドウは香り高く、柔らかなミネラルが感じられるバランスが取れたワインになるとされています。
リアス・バイシャスの海岸沿いの地域は砂質で軽い土壌が多くなっています。いっぽう、内陸部に行くと粘土質が多く、保水性が高くなります。
リアス・バイシャスのワイン
「海のワイン」と称される、リアス・バイシャスのアルバリーニョのワインは香りとミネラルが豊かで、酸も鮮やかなのが特徴です。アルバリーニョはリアス・バイシャス以外にもさまざまな地域で栽培されている品種です。その中でもリアス・バイシャスのものが評価される理由は気候、そして、花崗岩質の土壌によるものです。花崗岩質の土壌には保水性がありません。そのため、ブドウは水を求めて根を深くまで伸ばすため、ミネラル感のあるワインが造られる原因になるのです。
リアス・バイシャス の5つのサブゾーンのうち、バル・ド・サルネスは生産量が圧倒的に多く、アルバリーニョ100%のワインを特化して造っています。また、サブゾーンの中でも海に近いエリアのものはシャープさがあり、山深いエリアのものは自然で穏やかなものになります。この違いは海と山間部の湿度の違いによると考えられます。さらに、南部の内陸部、コンダード・ド・テアは比較的気温が高く、控えめな酸で力強いアルバリーニョが特徴だとされています。また、もっとも南部に位置し、丘陵地帯にあるオ・ロサルのワインはやや酸が弱めなのが特徴です。
リアス・バイシャスのブドウ品種
リアス・バイシャスの統制委員会が承認しているブドウ品種には以下のようなものがあります。
白ブドウ
アルバリーニョ、ロウレイラ・ブランカ、(Loureira blanca、別名マルケス、Marqués)、トレイシャドゥーラ(Treixadura)、カイーニョ・ブランコ(Caiño blanco)、トロンテス(Torrontés)、ゴデーリョ(Godello)
黒ブドウ
カイーニョ・ティント(Caiño tinto)、カスタニャル(Castañal)、エスパデイロ(Espadeiro)、ロウレイラ・ティンタ(Loureira tinta)、ソウソン(Sousón)、メンシア(Mencía)、ブランチャリオ(Brancellao)
なお、リアス・バイシャスでは黒ブドウの栽培はほとんど行われてきませんでした。しかし、近年は新しいワインを導入する流れがあり、それに伴い黒ブドウの生産量も増えています。
リアス・バイシャス のワインの種類
リアス・バイシャス統制委員会の取り決めによって、生産されたワインは委員会の検査プロセスに合格することが第一条件とされています。リアス・バイシャスでワインの名称に記載されるワインの種類は以下の通りです。
リアス・バイシャス アルバリーニョ
いずれかのサブゾーンで作られたアルバリーニョ単一品種によるワイン
リアス・バイシャス コンタード・ド・テア
70%以上のアルバリーニョとトレイシャドゥーラで造られたワインで。残りの原料も許可されている白ブドウ品種が使われている必要があります。そして、すべてのブドウがコンタード・デ・テアで作られている必要があります。
リアス・バイシャス オ・ロサル
70%以上のアルバリーニョとロウレイラで造られたワインで。残りの原料も許可されている白ブドウ品種が使われている必要があります。そして、すべてのブドウがオ・ロサルで作られている必要があります。
リアス・バイシャス バル・ド・サルネス
70%以上のアルバリーニョで造られたワインで。残りの原料も許可されている白ブドウ品種が使われている必要があります。そして、すべてのブドウがバル・ド・サルネスで作られている必要があります。
リアス・バイシャス リベイラ・ド・ウリャ
70%以上のアルバリーニョで造られたワインで。残りの原料も許可されている白ブドウ品種が使われている必要があります。そして、すべてのブドウがリベイラ・ド・ウリャで作られている必要があります。
リアス・バイシャス
サブゾーンのいずれかで作られた許可された白ブドウ品種のブレンドで造られたワインです。
リアス・バイシャス バリッカ
許可された白ブドウ品種を使い、D.O.内で作られているワインです。白ワインの醸造過程を経、600ℓ以下の木製の樽で熟成されます。
リアス・バイシャス ティント
統制委員会が承認した黒ブドウ品種を使い、統制委員会の規制に従って5つのサブゾーンのいずれかで生産されるワインです。
リアス・バイシャス エスプモソ
サブゾーンのいずれかで生産され、統制委員会の規制、国内とEUの規制、他にも確立されている規制に規定された要件を満たす、認められた品種で造られる瓶内二次発酵のスパークリングワインです。
おすすめ!リアス・バイシャスのアルバリーニョ100%ワイン
ポルタ・ダ・リーア(Porta da Ria)
高品質なアルバリーニョで知られるサブゾーン、バル・ド・サルネスのリバドゥミア(Ribadumia)にある、ボデガス・レクトラル・ド・ウミア(Bodegas Rectoral Do Umia)によるアルバリーニョ100%ワインです。ボデガス・レクトラル・ド・ウミアは創立2009年と若手のボデガで、最先端の技術を使い、品質管理を徹底し高品質ワインを造っています。ガリシア州各地にボデガを持つビノス・イ・ガジェーガス(Vinos y Bodegas Gallegas)
のグループに属しつつ、丹精込めて造られたブドウなしにはワイン造りはなしえないとの企業理念はしっかりと引き継がれています。
ポルタ・ダ・リーアは透明に輝くイエローゴールドに少し緑が入った色味をしています。アロマは力強く、マンゴーやりんご、杏や桃などの果物や、花などに加え、少しハーブの香りがあります。アルバリーニョらしいフレッシュな口当たり。酸はバランスが取れ、ストラクチャーもしっかりしています。料理は魚介料理のほか、何にでも合わせやすいのもおすすめのポイントです。
まとめ
スペイン国内で最高峰のリアス・バイシャスの白ワインについて解説しました。
日本に近い気候で造られ、魚介類を多用する和食との親和性も高いリアス・バイシャスのワイン。ぜひみなさまのスペインワインのお気に入りに、加えていただければと思います。