ワインはワイン単体で飲んでも十分に魅力的な飲み物ですが、料理と組み合わせることにより、その魅力を何倍にも発揮します。また、ワインと料理を組み合わせて楽しむことはひとつの文化であり、ワインの楽しみ方にさらなる深みを与えるのです。
今回はワインのペアリングについて解説し、おすすめのスペインワインと料理のペアリングも紹介します。
ペアリングとは?
ペアリング(Pairing)という言葉は一般的に「2つのものを組み合わせること」という意味で使われ、「ワインのペアリング」といった場合、料理と相性の良いワインを組み合わせること、を意味します。
ワイン業界でペアリングという概念が浸透するきっかけとなったのは、パリのレストラン『サンドラス』のシェフ、アラン・サンドラス(Alain Senderens)氏がコース料理で一皿ごとに異なるワインを合わせるという提供方法を「ペアリング」という言葉とともに提案したことだと言われています。
それでは、「料理とワインの相性が良い」ということは具体的に、どのようなことを指すのでしょうか?
私たちが「甘い」「酸っぱい」「旨味がある」などと感じる味覚は、食べ物や飲み物に含まれる化学物質を舌の表面の「味蕾」という器官が受容することによって感じられます。また、化学物質が口の中で混ざり合って互いに影響し合ったとき、「美味しい」または「美味しくない」と感じるケースがあるのです。この現象は味の相互作用と呼ばれます。そして、この味の相互作用によって、「料理とワインの相性が良い」と感じられ、「このワインと料理のペアリングが良い」ということになるのです。
味の相互作用の代表的なものとして以下の3つがあります。
相乗効果
甘味と甘味、旨味と旨味など、同じ系統の味同士が組み合わされ、その味が何倍にも強調される作用です。
非常に身近な相乗効果の例として、和食の出汁が挙げられます。出汁では、核酸系とアミノ酸系の旨味成分の相乗効果が起きています。鰹節のイノシン酸ナトリウム(核酸系)と昆布のグルタミン酸ナトリウム(アミノ酸系)が組み合わされ、相乗効果が起き、和食の決め手となる旨味が生まれるのです。
抑制効果
甘味と苦味、酸味と甘味、酸味と塩味など、違った味同士が組み合わされ、どちらかの味が弱められる作用です。
例えば、「コーヒーに砂糖を入れるとコーヒーの苦味が弱められる」、「魚の塩焼きにレモンを絞ると魚の塩味や苦味が和らげられる」などの現象は、抑制効果によるものです。
対比効果
甘味と塩味、旨味と塩味など、違った味同士が組み合わされ、どちらかの味もしくは両方の味が強くなる作用です。
例えば、「スイカに塩をかけるとスイカがさらに甘く感じられる」、「あんこに少しだけ塩を加えると甘味が増す」などの現象は、対比効果によるものです。
ワインペアリングの基本
ワインペアリングには以下のように3つの基本のルールがあります。
- 似ているもの同士を合わせる
- 対照的なもの同士を合わせる
- 産地が同じもの同士を合わせる
それぞれのルールについて少し詳しく解説していきましょう。
似ているもの同士を合わせる
このルールはおもに、すでに述べた味の「相乗効果」の作用を利用するためのルールだと考えるとわかりやすいでしょう。
料理とワインで似ているもの同士を合わせようとするとき、参考になるのがそれぞれの「濃淡」を意識することです。例えば、味付けの濃い料理には色の濃い、フルボディのワインを合わせると、それぞれのコクが相乗効果を起こし、美味しい、と感じられます。また、さっぱりとした料理に爽やかな白ワインを合わせると、とても爽やかな味わいに感じられる、ということになります。
ワインと料理の「濃淡」を意識するということは、味付けの濃淡のだけでなく、色合いの濃淡に関しても当てはまります。そのため、赤身肉や赤身魚には赤ワイン、白身魚や鶏肉には白ワインを合わせると相乗効果が生まれ、良いペアリングとなるのです。
また、ワインと料理の香りが似たもの同士を合わせるペアリングも成立します。例えば、ハーブが使われた料理であればハーブの香りが特徴のワインを合わせると相乗効果が起き、良いペアリングになります。
対照的なもの同士を合わせる
このルールはおもに、すでに述べた味の「抑制効果」または「対比効果」の作用を利用するためのルールだと考えるとわかりやすいでしょう。例えば、塩味の強い料理に極甘口のワインを合わせると良いペアリングなります。また、レモンを絞って食べたいような魚料理などに酸味の効いた白ワインを合わせると良いペアリングになるのも、対照的なもの同士を合わせている例と言えるでしょう。
産地が同じもの同士を合わせる
食材とワインの産地が同じもの同士を合わせると、良いペアリングになる、という基本ルールもあります。このルールは、すでに述べた味の「相乗効果」が関係していると考えられるでしょう。
産地が同じもの同士、ということは、育った土壌や環境が同じ、ということになります。そのため、それぞれに同じような成分がふくまれることになり、結果的に味の相乗効果が生まれる組み合わせになると推測されるのです。
おすすめのワインと料理のペアリング
ペアリングの基本についてお伝えしたところで、ここからはおすすめのスペインワインと料理のペアリングを紹介します。
アルトス・デ・ルソン(Altos de Luzón)×牛フィレのグリル
濃いルビーレッドの色合いでしっかりとしたストラクチャーとボリューム感のある飲みごたえたっぷりのアルトス・デ・ルソンには、濃厚な肉汁が楽しめる牛フィレのグリルをペアリングするのがおすすめです。ほかにも、ジビエ肉のローストやラム肉の煮込み料理など、赤身肉の旨味が存分に楽しめる料理も良いでしょう。
チャコリ カチニャ(Txakoli Katxiña)×オイルサーディン
チャコリ特有の柑橘系の爽やかなアロマが楽しめるチャコリ カチニャには、オイルサーディンをペアリングするとそれぞれの味と香りの個性がお互いを引き立て合い、良いペアリングになります。ほかにも、白身魚のムニエルや魚介類の鉄板焼きなどがおすすめです。
チャコリ カチニャの産地であるD.O.チャコリ・デ・ゲタリア ( Getariako Txakolina)はバスク地方(Basque)のギプスコア県(Gipuzkoa)のビスケー(Biscay)湾沿岸の小さな漁師町ゲタリア(Getaria)とザラウツ(Zarautz)周辺にあります。地元ではチャコリと一緒に同じく地元でとれた新鮮な白身魚や甲殻類を合わせるのが定番です。
フィンカ・アンティグア カベルネ・ソーヴィニヨン クリアンサ(Finca Antigua Cabernet Sauvignon Crianza)×ハーブソーセージのグリル
黒系ベリーのアロマと、カベルネ・ソーヴィニヨン特有のハーブやインクのニュアンスのあるフィンカ・アンティグア カベルネ・ソーヴィニヨン クリアンサにはハーブソーセージを合わせるのがおすすめです。ほかにも、シーフードのパエリアや香り高いきのこ料理とのペアリングも良いでしょう。
モスカテル アルグエソ(Moscatel Argüeso)×セミハードタイプのチーズ
モスカテルから造られる天然の極甘口シェリー、モスカテル アルグエソにはセミハードタイプのチーズを合わせると良いペアリングになります。ドライフルーツのように凝縮感のある甘い香りはチーズの塩味で引き立てられます。また、モスカテルのハーブのようなすっきりとしたニュアンスがチーズの濃厚な臭みを穏やかにしてくれる効果も期待できるでしょう。
また、モスカテルをドライフルーツや洋梨のタルトなど、香り高く甘いデザートと一緒に、それぞれの甘さと香りをたっぷりと楽しむペアリングもおすすめです。
まとめ
ワインのペアリングについて解説し、おすすめのスペインワインと料理のペアリングも紹介しました。この記事を参考に、ぜひあなたならではのペアリングを発見し、ワインの世界をより深く楽しんでいただければと思います。