スペインワインのファンの方でも、スペインの地方「バルデオラス」について知っているという方はあまり多くないかもしれません。バルデオラスは近年、高品質ワインの産地として世界から注目される存在として知られつつあるのです。
今回はD.O.バルデオラスのテロワールやD.O.バルデオラスの歴史、そして、バルデオラスを代表する品種のゴデージョの特徴について解説していきます。
D.O.バルデオラスのテロワールとは
D.O.バルデオラス(Valdeorras)とは、スペインのガリシア地方(Galicia)の最東端、オウレンセ県(Ourense)の内陸部に位置します。1945年に原産地呼称認定され、スペイン国内でも有数の伝統あるワイン産地です。
バルデオラスとはスペイン語で「黄金の谷」を意味する言葉です。かつて、ローマ帝国所有の黄金採掘場があったことから付けられた地名だと言われています。D.O.内の畑はその多くが、東のカスティーリャ・イ・リオン州(Castilla y León)から流れ込んできてバルデオラスを西に向かって横断する、シル川(Sil)の渓谷沿いに存在しています。また、シル川の他にもザレス川(Xares)、ビベイ川(Bibei)の流域にもブドウ畑があり、畑の標高は300〜700mほどです。
気候は気温の日較差、年較差の大きい、快晴の多い大陸性気候と地中海性気候がぶつかり合い、しかも、シル川沿いなどのミクロ・クリマ(Microclima/微気候、細かい気性の差が生じる地表面の気層の気候)が組み合わされています。そして、この気候はブドウ栽培には非常に良い条件となっています。夏は30℃を超える暑さになるものの、冬は寒く氷点下となり年間の平均気温は約11℃、年間の降水量は850〜1000mmで比較的多めです。
土壌は花崗岩質、粘板岩質、石灰質、沖積土など、多種多様な種類が存在します。中でもこの産地を代表するのは高地に広がる「アルシージョス・フェロソス(Arcillos-Ferrosos)」という、粘土や石灰質、二酸化ケイ素などが構成する保水力の高い肥沃な土壌です。この土壌からは特に高品質なワインが産出されています。
この多様な条件で、主にゴデージョ(Godello)とメンシア(Mencía)の2種のワイン用ブドウが作られています。ゴデージョ100%の白ワインはりんごやシトラス、グレープフルーツ、ハーブなどのアロマと、力強いミネラルを感じる味わいが特徴でスペイン屈指の高級白ワインとして非常に有名です。
メンシアを使用した赤ワインは濃い紫の色合いとベリー系のアロマ、複雑な味わい、軽快でバランスの取れた酸が特徴です。
ゴデージョとメンシア以外には白ワイン用ではドニャ・ブランカ(Doña Blanca)やパロミノ(Palomino)、赤ワイン用はメレンサオ(Merenzao)、アリカンテ(Alicante)、グラオ・ネグロ(Grao Negro)、テンプラニーリョ(Tempranillo)、ブランセリャオ(Brancellao)、ソウソン(Sousón)などが栽培されています。
バルデオラスを代表する品種、ゴデージョとは?
ゴデージョ、またはゴデーリョはスペインの土着品種です。近年の主な栽培地はカスティーリャ・イ・リオン州に位置するD.O.ビエルソ(Bierzo)とD.O.バルデオラスですが、この品種の起源には諸説あります。そのひとつはスペイン東南部のバレンシア県(Valencia)のゴデージャ(Godella)だとする説です。この説では1920年代初頭、ゴデージョのサンプルがゴデージャから商人によってガリシア地方によって運ばれた、と言われています。もうひとつはシル川の渓谷沿い、とする説で、こちらが一般的な説として広く知れ渡っています。
1970年代、世界的に多くの土着品種のブドウが絶滅の危機に瀕するなか、ゴデージョもその煽りを受け、一時期は品種が絶えてしまいそうになりました。当時は国際品種として白ワイン用ではシャルドネ(Chardonnay)などがもてはやされ、土着品種が引き抜かれていたのです。しかし、ガリシア地方周辺の農家、特に小規模の農家たちはこの優秀なブドウ品種を救うべく奔走し、40年もの歳月をかけてゴデージョを復活させました。
ゴデージョは成長の早い品種です。成熟の周期が短く、他の品種に先駆けて収穫を迎えます。そのため、遅霜に非常に弱いというデリケートな面も。暖かく乾燥した斜面の土地に適応し、房は小ぶりで薄めの緑色の皮を持ちます。
ワインになると黄色が強めのゴールデンイエローの色味で、酸味が程よく、アルコール度数は平均12.5度。ストラクチャーはしっかりとしていてクリーミーな口当たりが心地良く、リンゴやバナナ、白桃やグレープフルーツなどのフルーティな香りがあります。
最近ではニューヨークタイムズやボストン・グローブ誌などでゴデージョのワインについての特集が組まれるなど、注目度が高まりつつある品種です。ワイン通の間ではブルゴーニュとも並ぶエレガントさやしなやかな味わいを持つ白ワインとして非常に高く評価されています。
D.O.バルデオラスの歴史
バルデオラスは天然資源が豊かで、土壌が肥沃なため古代から人が住んでいました。バルデオラスについての最も古い文献は古代ローマの博物学者、プリニウス(Plinius)の残したものです。
ローマ軍はバルデオラスに到来し、南西から北西に横断するガリシアへのアクセス手段となる「VíaNova」と呼ばれる道路を作りました。また、ローマ帝国は当時の最新鋭の工学を駆使し、この地域の川の流れを変え、金を採掘していました。
現在でもバルデオラスにはビベイ川にかかる橋や柱頭、モザイクや彫刻など、ローマ帝国の遺産が残っています。
そして、ブドウの木とその栽培技術もローマ人によってガリシア地方に持ち込まれたと考えられています。また、バルデオラスはガリシア地方で最初にブドウ栽培とワイン醸造が行われた土地なのではないかと推測されています。
ローマ帝国が滅びると、この地方にはスエビ族と西ゴート族がやってきました。その後、イスラム教徒の進行により他の土地から隔絶されることとなり、人口が減少する暗黒時代が訪れます。
時代が変わり、レコンキスタが成立した後はブドウ栽培は修道院に引き継がれ、宗教儀式に必要なものとしてワイン造りも発展を遂げていきます。19世紀になると産業革命と通信技術の発展によってバルデオラスにも鉄道がもたらされ、ブドウ栽培にも追い風が吹きます。土着品種と技術の発展により、高品質なワインが生み出されるようになりました。
しかし、1882年にフィロキセラがバルデオラスのブドウ畑にも襲来します。わずか数年の間に1000ヘクタールものブドウ畑が壊滅状態となりました。ただ、バルデオラス市民のホセ・ヌニェス(José Núñez)がフィロキセラを駆除する方法を発見するという偉業を成し遂げました。その方法とは感染した切り株をすべて取り除き、全てを燃やして接木をおこなうという気の遠くなるような作業でした。しかし、すべてを成し遂げ、バルデオラスのブドウ栽培はピンチを乗り切ったのです。また、前述したように1970年代にはゴデージョの復活にも取り組み、高品質ワインとして知られるまでになりました。現在、D.O.バルデオラスはア・ルーア(A Rúa)、ア・ベイガ(A Veiga)、カルバレダ(Carballeda)、ラルーコ(Larouco)、オ・バルコ(O Barco)、オ・ボロ(O Bolo)、ペティン(Petín)、ルビア(Rubiá)、ヴィラマルティン(Vilamartin)の9つの区議会で構成されています。ア・ベイガ以外がすべての地域にそれぞれのブドウ畑があり、それぞれの独自性を保持しています。
まとめ
D.O.バルデオラスのテロワールやD.O.バルデオラスの歴史、そして、バルデオラスを代表する品種のゴデージョの特徴について解説しました。D.O.バルデオラスの産地としての魅力やゴデージョの価値について知っていただけたのではないかと思います。ぜひこの機会に、スペインワインにとって今は欠かせない存在となっているD.O.バルデオラスのワインを、お試しいただければと思います。